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 ローレンスと再会した翌日。

 朝起きた頃には、ローレンスは俺の従者になっていた。いくらなんでも、早すぎないか!?

 ……本当にどうなってるんだ。おかしな魔法でも使ったのかな。


「イーディス、お前の従者になるローレンス卿だ。彼は子爵位を持ち、獅子王陛下の元腹心の英傑だ。……失礼がないように」


 朝の食卓に俺を呼び出した父は……苦虫を噛み潰したような顔をしながらローレンスの紹介をした。敬愛する獅子王陛下の元腹心が『魔力なしのイーディス』の従者を希望したのだから、そんな顔になってしまっても仕方ないだろう。公爵夫人と兄姉たちも、奇怪なものを見る目でこちらを見ている。


「失礼がないように気をつけるのは、私の方ですよ。我が君……イーディス様。貴女に私の一生を捧げます。貴女を愛しております」


 執事服を身に着けたローレンスは俺の前に跪くと、うっとりとした表情でこちらを見上げる。そして、とんでもないことを言った。忠誠はともかく、『愛してる』ってなんなんだ! 彼の発言を聞いた家族たちも、目を丸くしている。

 忠誠心からの発言なのだろうが、周囲に妙な誤解を持たれそうで内心はらはらするぞ。

 ……もっと、初対面っぽい演技とかをしてくれないものかな。


「ローレンス……卿。な、なにを言うのですか」

「ローレンスと。卿なんて他人行儀な呼び方は嫌です」

「ぐっ……」


 ローレンスは眉尻を下げつつ、子犬のような目で俺を見つめる。

 きゅんきゅんという悲しげな鳴き声が聞こえそうなその表情に、俺はすぐに根負けしてしまった。


「では……ローレンスと呼びますね」

「イーディス様。敬語も嫌です」

「……ローレンス。わがままばかりだな?」

「ふふ。叱ってくださってもよいのですよ?」


 もしかしなくても、これは甘えているのだろうか。

 ……急に死んでしまって、寂しい思いをさせてしまった反動なのかな。

 獅子王だった頃の俺に少年の頃のローレンスが甘えるのならばまだわかるが、今の俺は少女でローレンスはいい大人である。少しばかり、絵面が怪しすぎないだろうか。


「なにがどうなっているのよ! どうしてローレンス卿が、この女の従者なんかに!」


 そんな怒声を上げたのは、三女のリアナだった。彼女に視線を向ければ、その瞳は爛々と怒りに燃えている。


「こんな魔力なしの女……! ローレンス卿にふさわしくないわ!」


 リアナがびしりと俺を指差し、さらに罵声を飛ばす。すると先ほどまでは感情豊かなものだったローレンスの表情が、どんどん冷えたものになっていく。そんなローレンスの様子に気づかず、リアナは言葉を続けた。


「イーディス! その貧相な体でローレンス卿を誘惑でもしたの? この売女!」


 リアナが言い終えるのと同時に、部屋の温度が一気に下がった。

 ゆらりとローレンスが立ち上がり、その片手がリアナに向けて突き出される。そして──。

 瞬きをするのにも満たない程度の短い時間で、リアナの体は分厚い氷に包まれた。その頭部だけは氷に包まれておらず、呼吸はちゃんとできているようでほっとする。いや、ほっとしてる場合じゃないな。

 ──ローレンス、なにをしてくれてるんだよ!

 というか、ローレンスの魔力量……昔と比べてかなり大きくなってるな!?

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