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ローレンスに、俺は現状の説明をした。
ちなみに兄上に殺された……という部分は伏せている。
病死ではなく暗殺だとローレンスに知られたら、なにを言い出すかわからないからなぁ。
説明を進めていくほどローレンスの表情が険しいものになっていくことには、とりあえず見ないフリをする。
そして、区切りのよいところまで現状を話し終えた時──。
「わかりました。レッドグレイヴ公爵家の者たちを、皆殺しにしましょう」
ローレンスはよい笑顔で、恐ろしいことを言った。
「ダメだ! お前といえど、レッドグレイヴ公爵家の者たちと対峙するのは危険だ」
俺が獅子王だった頃。ローレンスの魔法能力は、この国でトップクラスに近いものだった。成長した今、その能力はさらなる高みに達しているのかもしれない。
だからといって、レッドグレイヴ公爵家の者たちと戦って勝てる保証なんてものはない。
いや。そもそも俺はレッドグレイヴ公爵たちと、揉める気がないんだってば!
忠義を誓ってくれるのは嬉しいが、勝手な行動は慎んでほしい。
「私のことを心配してくださるのですか……!」
「そりゃあ、心配するだろう」
目をきらきらさせつつ言われて、俺は苦笑いを浮かべる。
前世でよくしてやっていたように手を伸ばして頭を撫でると、ローレンスは気持ちよさそうに目を細めた。
彼はしばらくの間気持ちよさそうにしていたが、俺の手をそっと取って頭から引き離す。
もう子どもじゃないのだから嫌だったかな……なんて思っていながらローレンスの行動を眺めていると、なぜか手のひらに頬ずりされた。
「……レッドグレイヴ公爵家の者とあろうものが、我が君の気配に気づかぬとは情けない」
瞳に仄暗い光を宿しながら、ローレンスがつぶやく。
「忠誠心が本物であれば、貴方が獅子王だと公爵家の者たちはすぐに気づけたはずだ。オーブ判定の結果に惑わされ、さらには虐待までするとは……。臣下とは思えぬ所業だ」
彼は怒っている。その佇まいは静かなものなのに、痛いくらいにそれが伝わってきた。
「元臣下と言え。この国を統治しているのは兄上だ」
「それこそ、納得できません」
宥めようとすると、ローレンスはふるふると首を左右に振る。
「それに関しては納得してくれ。今が兄上の治世であることは、間違いないのだから」
「しかし……。貴女を殺したのは、あいつだ。そんなやつに私は忠誠を捧げることなんてできない。私はずっと、貴女だけに忠誠を捧げてきたのです」
ローレンスはそう言うと、血が出るほどに唇を噛み締める。
彼が暗殺に勘づいていることに驚き、俺は目を瞠った。
「……ローレンス。気づいていたのか」
「気づかないはずが、ないでしょう。あいつは……我が君が死んで嬉しそうにしていた」
ローレンスは泣きそうな顔で眉尻を下げる。
その表情を見ていると、俺はなにも言えなくなってしまった。




