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前世の俺は、当然のことながら体内に『魔力がない』という状態を経験したことがない。
魔法を使いすぎると魔力が一時的に枯渇する……ということもあるらしいが、そちらにもあいにく縁がなかった。
まぁ、なにが言いたいかというと。
「この体には……ちゃんと魔力が巡っている。なのになぜ、測定でオーブが反応しなかった?」
つぶやきながら、手のひらを握ったり開いたりする。
『魔力なし』というのは、文字どおりの魔力が空っぽな状態のはすだ。しかしイーディスの体には、明確に魔力が巡っていた。前世では魔力を手足のように使っていた自分だ。絶対に気のせいなどではない。
それに、これは……。
──前世の俺と比較しても、遜色ない魔力量ではないか?
体の内側にある魔力を手繰り、その量や性質を探る。
それは前世の俺のものによく似ていて……というか、そのもののように思えた。
「……ん?」
もしかして、だが。
『獅子王』の魔力量を引き継いでしまったがために、イーディスの魔力は教会での測定可能範囲を越えてしまったのではないだろうか。『規格外』が出やすい王族は測定方法がそもそも違うので、あり得る話だ。
その上、イーディスは『魔力なし』と判断されてしまったために魔法に関する勉強をさせてもらえなかった。
魔法を学ぶ機会があったなら、試行錯誤をしているうちに自身の力に気づく機会があったのかもしれないが……。
内在している力に気づかないまま、イーディスは前世の記憶と引き換えのように消えてしまった。
「前世の俺が……現世の人生を歪めてしまったのか」
鏡に手をつき、鏡面に映った少女をじっと見つめる。
鏡の中の少女は眉間に深い皺を寄せ、なんとも言えない複雑な表情をしていた。
「……すまない」
コツンと鏡に額をつけ、『イーディス』に謝罪をする。
しばらくそうしたのちに、俺は顔を上げた。
──これから先のことを、考えるために。
生まれ変わってしまったからには、二度目の人生をしっかりと生きねばなるまい。
そうしないと、『イーディス』にも失礼だ。
長椅子に腰を下ろし、腕組みをしながら思案する。
一番楽な生き方は……。魔力の存在を開示し、自身の正しい価値を周囲に示すことだろう。
しかしこれは、まったく気が進まない。
『魔力なし』だと思われた末っ子が、『獅子王』の再来となる魔力量の持ち主だった。
それを知った父母は、すぐに手のひらをくるりと返すだろう。
しかし、兄姉はどうだ?
この国では、跡目は女でも継げる。父母は俺を跡目に推そうとするだろう。
兄姉は公爵家の跡目になろうと努力をしている最中であることが、容易に想像できる。
そこに突然、俺が割り込んできたら──。
「きっと、前世の二の舞いになるな」
前世の焼けるような喉の痛み。
それを思い出してしまい、俺はそっと喉を押さえた。
恨みを買って、殺されて。そんな人生は、もうごめんである。
前世の俺は、周囲に流されるままに生きてきた。そして、その結果があれだ。
「この人生では、人に流されることなく……。自分がしたいことを見つけてそれに邁進したいな」
天井を見上げながら、ぽつりとつぶやく。
うん、この考えは悪くないような気がするな。
自身の考えにほくそ笑んでいた時──。
「イーディス!」
癇に障る甲高い声とともに、扉が大きく開け放たれた。