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「なぁんか、最近のあんたつまんないのよねぇ」


 令嬢らしく美しい所作でメインの肉料理を切り分けつつ、リアナが言う。


「……つまらない、ですか?」


 リアナの言葉に首を傾げながら、俺はサラダを口にした。

 うん、美味いな。ビネガーと胡椒のドレッシングが葉物野菜とよく合うじゃないか。


「たしかに。前と違ってびくびくしないし。虐めがいがないわねぇ」


 メリアンもリアナの言葉に同意をする。

 彼女はぱかぱかとワインを口にしており、その消費スピードはとんでもない速さだ。

 しかしその頬は雪のように白いままなのだから、本当に不思議なものである。


「そのようなことは、ありません。お姉様方」

「ほら、その態度。一体どうしちゃったのかしら。私の可愛い妹は」


 メリアンはわざとらしくため息をついてから、またワインを煽る。

 ……昔のイーディスっぽい態度を取り続けることは、とうの昔に諦めたからなぁ。

 か弱いご令嬢の仮面を被り続けるのは、どうにも疲れるのだ。

 兄姉に感じていた恐れの感情も、今の『俺』として過ごすうちにすっかり薄れてしまったしな。

 演技をしていても素を晒していても罵倒やらをされるのならば、素で過ごすのがよいだろう。


「食事中に、無駄口はよせ」

「あら、お兄様。無駄口じゃなくて姉妹の可愛い会話よ……ね!」


 リアナはそう言いながら、グラスをこちらに投げつける。

 魔法でコントロールされたそれは、中身のワインを俺の頭にぶちまけてからゆっくりと床に落ちた。

 ディリアンはワインでびしょ濡れの俺と楽しそうなリアナを交互に見てから、ふうと小さく息を吐く。


「リアナ。これにはもう傷をつけるな。第五王子殿下が、ずいぶんとご執心のようだからな。獅子王陛下の頃より威光が衰えているとはいえ、王家は王家だ」

「わかってるわ、お兄様。だからワインをかけるだけで済ませたんじゃない」


 リアナはディリアンに苦言を呈され、ぷくんと頬を膨らませる。

 その子どもっぽい仕草を目にして、ディリアンは眉を顰めた。


「そもそもだ。これの体が傷だらけなことがバレたら、王家になんと言われるか──」

「そのうち治癒魔法をかければいいのよ」

「お前の治癒魔法で、綺麗に治るのか?」

「うるさいわね! というか、お兄様は王家を恐れすぎなのよ。王家なんて、レッドグレイヴ公爵家に敵う存在じゃないわ。わたくしが当主になったあかつきには、謀反でも起こしてやろうかしら。一日で玉座を獲る自信があるわ」

「リアナ、口を慎め」


 リアナとディリアンが睨み合い、場の雰囲気が重くなる。

 俺は存在感を消しつつ肉を食みながら、二人のやり取りに耳を傾けた。


 レッドグレイヴ公爵家の王家への忠誠心は……ずいぶんと衰えているとは思っていたが。


 誰が聞いているかもわからない場所で、謀反を口にするまでに落ちたのだな。


「……獅子王陛下以外に忠誠を誓ういわれはないが。しかし、二心は隠せ」


 そう言ったのは、レッドグレイヴ公爵だった。その言葉に俺はぽかんとしてしまう。

 ……レッドグレイヴ公爵は王家への忠誠を失ったのではなく、あくまで『獅子王』に忠誠を誓っていたということなのか?

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