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俺が前世の記憶を取り戻してから、半年ほどが経過した。
王子殿下の婚約者になった日から俺への扱いはマシになり、リアナを筆頭とする兄姉からの暴力はなりを潜めている。
俺がエドゥアール殿下と『望まれない』婚約をしていれば、家族は今までどおりの対応をしていたのだと思う。
しかしエドゥアール殿下は、『なぜか』俺を気に入ってしまった。
そして『僕の婚約者を丁重に扱うように』と、公爵に申しつけてから帰ったのだ。
レッドグレイヴ公爵家といえど……そして腹の中ではなんと思っていようとも。表立って王族に逆らうわけにはいかない。
かくして、俺の生活は多少の改善をされたわけだ。
とはいえ。改善といえど部屋がマシになったくらいで、今までどおりの軟禁同然の扱いであることには変わりない。衣類も数枚は増えたものの、公爵家の令嬢が身に着けるにしては粗末なものだしな。
……と思っていたら、婚約者殿からドレスが何着か届いた。
しかし、どれもフリフリしているのでふだん使いは難しそうだ。これはエドゥアール殿下の趣味なのだろうか。殿下と出かける機会があれば着ねばなるまいな。それが礼儀というものだ。
朝昼の食事に関してはあからさまな残飯が出てこなくなった程度の改善で、実に質素なものである。
まぁこのあたりは、魔物を狩ればいいだけなのでなにも問題ない。
ほかに、変わったことといえば……。
──三週間に一度程度、『家族』との夕食に呼ばれるようになったことだろうか。
家族との食事は当然楽しいものではない。
ちくちく……どころか盛大な嫌味を言われつつ過ごす、地獄のような時間だ。
食事自体は美味なのだがなぁ。あの家族と……なるとその美味さも半減だ。
今日もその家族団らんの日で、頭が痛い限りである。
そんなことを思いながら、シンプルなデザインのドレスに袖を通す。そして、鏡の前に立った。
「ふむ」
ちゃんと肉がついてきたな。そして肌艶もかなりよくなっているぞ。
明確に表れてきた魔物肉の効能に、俺はご満悦になる。
魔力も前世に目覚めた頃より活性化しているし、魔力回路の調子もいい。
体力は……その。一朝一夕でつくものではないからな。うん。
戦い方が魔法頼りなので、体力の方がなかなかつかないんだよなぁ。
部屋で筋肉をつける運動や剣の素振りでもするかな。家人に怪しまれない程度に。
「イーディスお嬢様。お食事の時間です」
部屋の扉がノックされ、メイドが顔を出す。
使用人たちの俺を見る目は相変わらず氷のように冷たいが、その態度は一応節度のあるものへと変わっていた。俺を睨んだり、ぼそりと『魔力なしが』なんて言うことはない。
……権力ってすごいな。
ぽちゃぽちゃした少年の顔を思い浮かべながら、俺はそんなことを思う。
「今行きます」
そう答えてから廊下に出ると、メイドに先導されながら廊下を進む。
──さて、楽しい家族団らんのはじまりだ。




