表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/44

とある従者の独白

 ──我が君が、死んだ。

 

 平民である私の魔法の才をひと目で見抜き、拾って側に置いてくださったあの方が。

 病死だとそう知らされたが、そんなわけがない。

 ローワン陛下とは、つい数時間前までふつうに喋っていたのだから。


「ローレンス、何度言ったらわかる。あれは病死だ」


 ローワン陛下の兄──王兄デレック殿下はそう言うと、口角を少し上げる。

 その愉悦に満ちた表情を目にして、私は確信した。

 ローワン陛下を殺したのは、この男だ。


「納得ができません」

「弟の腹心とはいえ……平民ごときがこれ以上私に楯突くな。私はこれから、即位の準備で忙しいのだ」


 今すぐに殺してやりたいと、心の底から思った。

 そしてその考えをすぐさま実行しようと、私は後ろ手に隠した手に魔力を集めた。

 しかし……。


『兄上は……本当は優しい人なんだ』


 寂しそうに笑う我が君の笑顔が脳裏を過り、私は発動しかけた魔法を放つことができなかったのである。

 憎まれていようとも、ローワン陛下はデレック殿下を家族として大事に思っていた。

 我が君が慕っていた相手のことを手にかけることが……私にはできなかったのだ。


 それからの私は──。

 我が君が成そうとしていたことを成すため、国中を飛び回った。


 ──ローレンス、魔物の討伐隊の整備をもっとせねばな。

 ──ローレンス、隣国との諍いに関してのことだが。

 ──ローレンス、アイリオ地方の治水の件だが……。


 我が君が話していたことを思い返しながら、問題の解決に奔走する。

 獅子王陛下の腹心がやることに皆は関心を寄せてくださり、平民であるのにも拘わらずさまざまなことができたと思う。

 そうしているうちに、私は『子爵』の地位を得ていた。

 我が君の面影を追っての私の行いは、デレック陛下にとっても都合がよいことだったのだ。

 反逆の意思も見られないので、地位を与えて国のためにさらに働かせようという魂胆なのだろう。


 そして、十六年の月日が経ち。

 獅子王陛下という光を失ったこの国は、どんどん腐敗していった。

 私はそれを、指を咥えて見ていることしかできない。


 我が君、どうしていなくなってしまったのですか。

 私は……これからなにをすればいいのです。


 屋敷のバルコニーから星を見上げてそんなことを考えていた時。

 獅子王陛下の魔力の気配が、五感を揺らした。

 それを感じたのは一瞬のことだったが、確実に我が君の魔力だった。私にはわかる。


「我が君……この世界のどこかに、いらっしゃるのですね」


 実は生きていたのか、はたまた生まれ変わりなのか。それはわからないが。

 涙が溢れ、頬を濡らしていく。

 ──我が君を探そう。

 ふたたび会えたら再会を喜び、また私を貴方の側に置いていただくのだ。

 そしてまた貴方の治世を見たいと……私は心より願っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ