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「それって、前王の腹心の……?」
「そう! 獅子王陛下の元腹心。元平民で今は子爵のローレンス卿だ」
店主は嬉しそうに言いながら、胸を張って得意げ顔になる。
なぜ店主が得意げなのかはわからないが、楽しそうだからまぁよいか。
……ローレンスは健在なのか。そして、貴族になったんだな。
俺が獅子王だった頃。孤児だったローレンスの才能を見出した俺は、彼を側近として置いた。
拾われた恩を強く感じたらしいローレンスは影のように俺に寄り添い、その力を尽くしてくれたものだ。
俺が命を落とした時、彼は十六だった。十六年経った今、ローレンスは三十二歳なのか。なんだか想像がつかないな。
赤髪と金色の目を持つ絶世の美少年は、どんな大人になっているのだろう。いずれ社交の時などに、会うこともあるのかな。それが、少しだけ楽しみだ。
今の俺は『イーディス』なので、こっそり懐かしむことしかできないけれど。
魔物の肝をかなりの価格で買い取ってもらった俺は、店主によい古着店を教えてもらいそちらに向かった。
適当に動きやすい服が調達できるといいのだが。
そんなことを思いながら、店の扉を開けると……。
「なぁにぃ、あんたぁ! せっかく可愛いのにぼろっぼろの服なんて着て!」
そんな大音声が耳に飛び込んできた。
キンキンと痛みを訴える耳を押さえながら声の主に目を向けると、そこには女性の衣類を身に纏った大柄な男が仁王立ちしていた。……世の中にはこういう嗜好の人間がいるとは知っていたが、生でははじめて見たな。
金色の髪を縦ロールにし、マッチョな体に赤のドレスを纏ったその姿は、なかなかの迫力である。
「あ、貴方は店主か? 事情があってこんな服しか着ることができなくてな。多少懐が暖かくなったので、新しい服を買いに来た」
「まぁまぁ、そうなのね。貴女に似合う服、いっぱいあるわよ。どんな服がほしいの?」
「動きやすくて、ちょっとやそっとじゃ破れない丈夫な服がいい。デザインにはこだわりはない」
「なんとも、色気がない答えねぇ。男の子みたいな口調だし、変わった子。いえ、これはあたしも人のことは言えないかしら」
伏し目がちに言われて、ふうと重いため息をつかれる。
……着飾るつもりなどないのだから、仕方ないだろう。実用性が第一だ。
「店主。予算内で数着、適当に──」
「ジェーンちゃんって呼んで!」
「……では、ジェーンちゃん。適当に選んでもらえると嬉しい」
「適当じゃ、嫌ァ!」
店主──ジェーンちゃんが、真剣な表情でずいとこちらに顔を近づけてくる。うう、なんて圧だ。あまりの迫力に気圧されてしまい、俺は一歩後ずさる。
「動きやすくて、丈夫で、似合うのを数着。適当ではなく、心を込めて選んであげたいの! よろしい!?」
「……じゃあ、それでいいです」
「任せて!」
ジェーンちゃんはご機嫌で、服を選びはじめる。
いやはや。……どんなものを着ることになるのかな。