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14

 風魔法を足に纏わせ、俺は領都へ駆ける。

 領都に入るためには身分証が必要なわけだが俺はそんなもの持ち合わせていないので、隠蔽魔法を使って街に入ることにする。

 街から少し離れた場所で隠蔽魔法を自身にかけて、門兵の横を堂々と通り街の中に足を踏み入れる。

 

「おお……」


 たくさんの人々が行き交うその風景に、俺は思わず声を上げた。さすが領都、賑やかだな。

 ふだんは部屋で一人きりなので、ちょっと人酔いしそうだ。

 隠蔽魔法で隠れたまま、街をしばらく歩いて回る。そうしていると、小さな魔法薬店が目に留まった。

 ふむ、ここなら魔物の肝を買い取ってくれるかな。

 物陰で隠蔽魔法を解いてから店に入ると、薬草の香りが混じり合った独特の匂いが放をつく。

 カウンターにいた店主は、俺を見ると少し首を傾げた。

 ……まぁ、ここに用がある人種には見えないよな。


「ここって、魔物の素材買い取ってますか」


 カウンターに行ってそう声をかければ、店主の目は丸くなる。


「まぁ、ものによるかな」

「ひとまず見ていただいても?」


 気だるそうに言う店主の前に、凍らせた肝を置く。すると、店主の目の色が変わった。


「白狼の魔物の肝です。魔力増加薬の材料になったと思うんですけど……」


 魔力増加薬は一時的に魔力の容量を上げる魔法薬である。

 魔力の容量を上げることで一時的にでもランクが上の魔法を使えるようになるので、結構需要がある薬だ。


「ああ、そのとおりだ。よく知ってるな。これはどこで手に入れたんだ?」

「……秘密です」


 白狼はそこそこの大物だ。自分で狩ったと言っても信じてくれないだろうし、信じられてもそれはそれで面倒なことになりそうだ。なのでぼかしてしまうことにする。


「秘密ねぇ。まぁ、いいか。……傷ついてないし、保管の仕方もいいな」

「子どもだからって、値切ったりしないでくださいね。これからも素材、持ち込みますから」


 そう言いつつじっと見つめれば、店主は「ふむ」と小さくつぶやく。


「なかなかしっかりしたお嬢さんだな。独占させてくれるなら、相場より高く引き取るよ。最近、魔物素材の仕入れは減る一方だからな」


 討伐隊がまともに機能していれば、大抵の魔物素材は安定的に供給される。

 しかし先日森に入った時には、魔物の気配は驚くほどに濃かった。

 ……まるで、討伐隊が機能していないように。


「討伐隊は……?」


 俺が訊ねると、店主はため息をついてから軽く肩を竦めた。


「討伐隊なんて、長い間動いてないよ」


 ……やっぱり、そうなのか。

 店主の言葉を聞いて、俺は落胆する。


「……しかし。王家から各領主に討伐の要請が出ているのでは?」

「あんた、ちっこいのに物知りだな。昔だったら各領主様も言うことを聞いたんだろうがなぁ。獅子王陛下が亡くなってからは王家の御威光も……おっと、口が過ぎたな。ま、魔物討伐よりも舞踏会でもしていた方が楽しいと考える領主様方が多いんだよ。冒険者ギルドがちょこちょこ対処はしてるんだが、それじゃ間に合わなくてね」


 まさか、そんなことになっていたなんて。

 俺は顔を俯け、唇を噛んでしまう。

 魔物を放置することの危険性は、何度も何度も王だった頃に説いたはずなのに。


 ──皆、忘れてしまったのか。


 民を危険に晒す可能性を放置し、享楽に耽るような国になってしまったのか。


「ローレンス卿だけは、今も熱心に討伐で動いてくださっているんだがね」

「……ローレンス、卿」


 店主の口から出た、『聞き覚え』のある名前。

 それを聞いて、俺は目をぱちくりとさせた。

 ローレンスって、前世で俺の腹心だった……。

 あのローレンスのことか?

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