13
はじめて家を抜け出した日から、四日が経った。あの日から俺は、家を毎日抜け出していた。
俺が家を抜け出していることには誰も気づかず、家人のイーディスの関心のなさをひしひしと感じる。
それは助かることではあるのだが、前世の記憶が戻る前のイーディスの心情を考えると少しばかり落ち込むな。
……魔力がないと判断されただけで、こんな扱いになるなんて。
か弱いご令嬢には、本当に耐え難いことだっただろう。
庭木を適当に折って作った串に刺した魔物の肉に軽く塩を振り、火魔法で焼きつつそんなことを思う。
ちなみに、この塩は厨房から夜中に拝借したものだ。
一度味つけなしで食べてみたら、さすがに食べにくかったからな……。
魔物の肉は総じて、硬いレバーのような風味だ。好みが分かれる味だとは思うが、俺は嫌いではない。
酒ともよく合うしな。早く成人して、魔物肉をつまみに酒を呑みたいものである。
なんの対処もしないで部屋で肉を焼くと匂いや煙がすごいことになることが予想できたので、魔法での換気はしっかりとしている。
それでもちょっと匂いが残ってしまうようで、先日部屋に来たリアナには「水浴びくらいちゃんとしなさい!」と罵声を浴びせられた。
……違うんだ。俺の匂いじゃないんだ。
臭いと言われてしまうのは、濡れ衣でもちょっぴり傷つくものである。
「よし、焼けたな」
焼き上がった肉を俺は口に頬張る。そして、もしゃもしゃと咀嚼した。
イーディスは胃腸が弱い。与えられる食べ物の量が少なかったので、消化器官を使う機会が少なかったからだろうな。
なのでしっかりとよく噛んで食べることにしている。
……空腹任せにがっついて、一度腹を壊したのは内緒だ。
魔物の肉の効果は、まだ顕著には出ていない。しかし空腹でないというのはいいことだ。
腹が満ちるだけで、気力が段違いに増すもんな。
食べて、よく寝て、運動をする。
その繰り返しをしているうちに、体力はいずれつくだろう。
こういうことには根気が必要なのだ。一朝一夕で身につくものではない。
「さて、と」
腹が満ちた俺はクローゼットを開ける。
クローゼットには小分けにして凍らせた魔物肉と、魔物から剥ぎ取った売れそうな部位をしまっている。
……誰かに見つからないように、気をつけないとな。
もっといい隠し場所を確保した方がいいかもしれない。
「これでも、売りに行くかなぁ」
凍らせたいくつかの魔物の肝を眺めながら、俺はつぶやく。
この肝は魔法薬の材料になるもので、結構高く売れる。売れば、外出用の服や鞄などの一式は買えるだろう。
通りすがる人に可哀想な子を見る目で見られるので、早くぼろぼろでサイズが合っていないワンピースは卒業したい。
外を見れば、まだ陽が高い。今から……街に出るか。