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 少年と森の出口で別れた俺は、獲物片手に公爵家への帰路に就いた。

 陽はまだ高く、夕方までには屋敷に戻れそうでほっとする。

 獲物は氷魔法で凍らせてから保存して、調理は明日にしよう。今日は少しばかり疲れてしまった。

 

「前世とはやはり勝手が違うな」


 のんびりと街道を歩きながら、俺は腕組みをする。

 体力がない。魔法の練度が足りない。その双方が影響して、術式が複雑な魔法を扱うのにはリスクが伴う。

 高位魔法に関しては確実に失敗する。そして、隠蔽魔法の行使の失敗とは比較にならない怪我を負うだろうことが予想できる。というかたぶん、死ぬ。

 前世であれば多少怪我を負っても回復魔法を使えばよかったのだが……。回復魔法なんてものは高位魔法の最たるものなので、そもそも行使ができない。大きな怪我を負ったらそこでお終いだ。怪我をしないように気をつけないとな。


 ──ただまぁ、判明したのは悪いことばかりではない。


 魔力を体に流すのに必要な魔力回路に毀損がないこと。

 イーディスの体は魔法の行使の勘が悪くないこと。

 複雑な術式を要しない魔法の行使には、支障がないこと。


 これらが判明したのは、収穫だった。

 うんうんと頷く俺に、通りすがる者からの微妙な視線が向けられる。

 魔物を片手に持って歩く、痩せこせた少女。その存在は不気味に見えるのだろう。

 だけどもうちょっと屋敷に近づいてから、隠蔽魔法は使いたいしなぁ……。

 その時、一人の老婆がこちらに近づいてきた。


「ねぇ、お嬢ちゃん。迷子なの?」

「いえ、今から家に帰るところで……」

「それならよかったわ。その魔物はどこかで拾ったの?」

「は、はい。食べるつもりで」

「そうなのね。ううっ」


 老婆はそう言うと、涙を目に浮かべる。

 魔物はふつうの鳥獣よりも美味ではないが、食べられないほどのものではないぞ!

 ふだんからまともな飯を食べていない自分からするとご馳走だ。


「よければ、これを食べて。このショールも使いなさい」


 老婆はそう言うと、俺に身に着けていたショールを巻いてから菓子が入っているらしい袋を俺に押しつけて去って行く。

 ……もしかして。

 先ほどから向けられている視線は、不気味なものを見る目ではなく貧しそうな少女を見る憐憫の目か!?


「いやはや。……この服がよくないのかな」


 浄化したとはいえ、長い年月をかけてボロボロになった服はごまかせない。丈もえらく短いしな。

 ……そのうち、ちゃんとした服を買うか。

 特定の部位が高く売れる魔物なんてものもいるから、そういうのを狙って狩ろう。


 屋敷が近づいてきたので、人気がないところで隠蔽魔法を行使する。

 やはり不快な感覚が身に訪れたが、最初に行使したほどではなくて俺はほっとした。

 いくらか魔法を使ったことで、魔法の行使に慣れてきたのかもしれないな。

 こっそりと部屋に戻り、クローゼットに魔物をしまう。

 そして、老婆からもらった菓子──手作りのクッキーだった──を口にすると……。


「あま……っ」


 それはとても甘くて、ちょっと涙が出るくらいに美味しかった。

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