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 少年は俺の視線に気づき、自身の股間を見やる。

 そして、自身が漏らしていることにようやく気づいたようだった。

 彼は真っ赤になると、股間を手で隠す。そんなことをしている間に、浄化魔法でもかければいいのにな。


「なっ……なっ……。なんなんだ、お前は! あんな、化け物みたいな魔法をっ……!」


 少年は涙目で俺を睨みながら、虚勢を張りつつ暴言を吐く。

 ……本当に躾がなっていないな。


「助けてもらってそれはないのではないか? 礼のひとつくらい言うべきだと思うのだが。それに、人を囮にしようとするなんて卑怯な行いだ」

「うるさい! 下々の者が僕を助けるのは当たり前だろう! 礼なんて──」


 パン! と小気味いい音が森に響いた。

 少年の言い草があんまりなので、ついつい彼のまるまるとした頬にビンタを放ってしまったのだ。

 彼は心底驚いた様子で、目を丸くしながらこちらを見ている。

 ……家族にも叱られたことがない、という感じだな。

 叩いてしまったのはまずかったなと後悔したが、やったことは取り消せない。

 俺はふーっと深い息を吐き出してから、少年を見据えた。


「貴方は、人々の上に立つ者なのだろう? 民に恥ずかしくない生き方をしないでどうする。民は……常に貴方の行いを見ているぞ」

「──ッ!」


 少年は歯を食いしばりながら、俺をキッと睨む。

 みるみるうちにその目には涙が溜まり、頬を零れ落ちていった。

 ……命の危機に遭ったばかりで動揺しているところに、言い過ぎたかもしれないな。

 俺は彼の前に行くと、頬を伝う涙をそっと指先で拭う。すると少年は、驚いた顔になった。


「……貴方にも事情があるのだろうに、言い過ぎた」


 謝罪をしつつ、ついでに彼のズボンに浄化魔法をかける。うん、これで綺麗になったな。


「いや、その。僕も……その」


 少年はもごもごと、なにやら言葉を紡ごうとする。

 彼がなにを言おうとしているのか察して、俺は辛抱強く続く言葉を待った。


「……悪かった。それと、助けてくれてありがとう」


 少年からの謝罪と礼に、口角が少し上がってしまう。

 そんな俺の顔を目にして、少年の頬はなぜだか赤くなった。


「こちらも、ぶってすまなかった。痛かったか?」

「いや、まったく痛くなかった」

「……そうか」


 ……イーディスの体は非力だもんな。

 彼に怪我をさせた様子はないので、ひとまず安堵する。

 俺は立ち上がると、転がっている魔物の死体から損傷が軽度で持ち運びやすいサイズのものを物色する。この鳥の魔物でいいか。

 そんな俺を目にして、少年は目を丸くした。


「魔物の死体なんてどうするんだ?」

「食べる」


 氷魔法で即席のナイフを作り、テキパキと血抜きと腸の抜き出しをする。

 こういう作業は、前世の魔物狩りの際の野営で慣れているのだ。

 少年は血には慣れていないようで、俺のやっている作業から目を逸らした。


「そんなものを食べるくらいに、貧しいのか?」

「まぁ、そんなところだ」


 言いながら笑ってみせると、少年の眉尻が思い切り下がる。

 うん、なんだか同情されている気がするぞ。


「じゃあ、俺はそろそろ行くな」


 血で汚れた手を浄化魔法で綺麗にし少年に言葉をかけてから立ち去ろうとすると、くいと服の裾を引かれた。

 振り返って首を傾げる俺を、少年はじっと見つめる。


「一人で、森の出口まで行くのが怖い。……連れて行け」


 そして、心細そうな顔で命じられた。

 たしかに、ここに放置したままはまずいかもしれないな。


「わかった、一緒に行こう」

「は? 手?」


 獲物を持っていない方の手を差し出せば、少年は慌てた様子になる。

 前世の妹にしていたように手を差し出してしまったが、嫌だったかな。

 彼から見て俺は平民にしか見えないだろうし、下々と手を繋ぐのには抵抗があるのだろう。


「嫌なら──」

「嫌じゃない!」


 彼は自分の衣服で丁寧に手を拭ってから、俺の手に手を重ねる。

 ……彼が嫌じゃないなら、まぁいいか。

 俺たちは手を繋いで、ぽつぽつと会話をしながら森の出口へ向かう。


「お前、いくつなんだ?」

「俺か? 十六だ」

「……十六。僕のふたつ上か」

「ふふ。年上は敬っていいんだぞ」

「……お前、女なのになんでそんな言葉使いなんだ?」

「人それぞれ、事情があるんだ」

「ふぅん」


 今さらだが、女性らしい話し方をするべきだったか。

 この少年にまた会うことはないだろうし……まぁいいか。

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