女君にちんこはない
御世が代わった。次の東宮となるべき男の子が居なかったため、退位した朱雀院の女一宮が皇太子となった。その流れで関白左大臣が引退したため、権大納言であった父は関白左大臣となり、女君は侍従から三位中将となる。出世である。
「なぁなぁ、左大臣さんよ。」
それから幾ばくもないときだった。父が歩いていると、長年折り合いの悪かった時の右大臣から呼び止められる。敵意のない笑顔に父は少し驚いた。今まで顔を会わせれば嫌味の押収だったからだ。
「帝も代わりなさって、わしらの時代はもうすぎたじゃないか。いがみ合うのはもうやめにしないか?」
そう続ける右大臣に、父は笑顔で返した。悩みの種がひとつ減るのはでかかったからだ。
「もちろんだ!これからは仲良くしようじゃないか!」
その言葉を待っていた、という風に右大臣は頷く。
「それでなんだがな…。うちの可愛い可愛い娘、四の君をお前の息子に嫁がせたいと思ってだな…。」
父の笑顔は固まった。右大臣の言っている"息子"というのはもちろん女君のこと指しているからである。女に女を嫁がせるのは無理だ。分かっている。ちらと右大臣の方を見る。断られるとは微塵も考えていない顔だった。流れ的に断れない。
(まあ、ええか…!)
父は考えるのを止めた。
結婚の儀はつつがなく終わったが、問題は夜である。結婚のあと、三日は睦言をせねばならない決まりである。ここで大事なことだが、女君に某はついていない。もちろん玉もだ。つまり、セッ…できないのである。
「あの、三位中将さま…?」
可愛らしくこちらを呼ぶ声にさて、どうしたものかと女君は考えた。そして思った。
(箱入り娘だし、セッ…を知らないに違いない!)
そう、四の君はドがつくほどの箱入りなのである。天皇家の血が入っている上に父である右大臣から溺愛されている。ソーセージがホットドッグになることなど知るはずもないのだ。
「四の君、これからすることを知っているか?」
慎重に伺うと、
「父から『将来結婚する相手に聞きなさい』と聞かされてきたので…。」
存じ上げませんわ、と四の君はこてんと首を傾げた。
女君は勝ちを確信した。そして一つ咳払いひとつ。
「セッ…というのは二人で楽しい話をして夜を明かすことだ。」
とにこりと笑って告げる。
四の君はまぁ、そうなのね!と楽しそうに笑って姿勢を正した。
そして二人は飽きることなくお喋りをし、女とバレることなく三日を乗り切ったのであった。平和である。
女君は男装に気付かれることなく、三位中将から権中納言へと栄進を遂げ、男として成功していったのだった。