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Avenger  作者: kaluha
Chapter7:ネルスターの弱点
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Chapter7:ネルスターの弱点(2)

「ねぇ、ネルスターに“弱点”ってあるの?」

「……えっ?」

 私は突然話を振られてびっくりしてしまった。さっきまでなんか、研究所に置ける恋愛事情的な話で盛り上がっていて、ついていけないなくてぼーっとしていたっていうのに、どこからどうなってそんなところへ話が帰着するんだろう?

「うんうんそれ、気になる。いつも一緒にいるキールさんだったら何か知ってるんじゃないの?」

 みなさん興味津々で、一斉に私に注目する。

「弱点?いったいなんの話ですか?」

 私は話について行けなくて聞き返した。

「いやーだって、うちら技術畑からしてもなかなかっていうぐらいのマジック技量あるし、強そうだし、頭もよさそうだしルックスもいいし、なんか弱点がないと許せないっていうかー。」

 いったいなんの話だ。これはどんなテンションで返事をすべきなんだろう。真面目に答えればいいのか?

「弱点なんていっぱいあると思いますけど……?」

 私がひとまずそう前置きして様子をうかがうと、みんなえーっ、と若干オーバーリアクション。研究職の人たちって独特の世界があって、微妙に遣りづらい……。デバイスのチェックをしてもらいにM・ラボを訪れたら、たまたま飲み会だったらしく、誘われるままに連れられてきてしまったのだが。

「たとえばー、あの人トマト食べられないし。」

 当たり障りのないことから小出しにしてみると、爆笑されてしまった。そんなに面白いかな。まあこれが飲み会のテンションですよね。

「あと、昔クラヴィス・マスグレイブのファンだったらしくて、左上腕に双頭の蛇のタトゥーが未だに入ってる、とか」

 またもや爆笑。

「それは痛いわー」

「なんで双頭の蛇にしちゃったかなー」

「あんまり聞きたくなかったなーそれオフレコじゃないの?」

 もう大盛り上がりだった。盛り上がってくれるならこちらとしてもそれで結構だけど。

「いや、本人も若気の至りだとか言ってよくネタにしてるぐらいだから、大丈夫だと思います」

 私は苦笑しつつ答えた。

 ちなみに、実にどうでもいいことだけど、クラヴィス・マスグレイブというのは、一昔前に流行ったティーン向けのモデル兼アイドルで、当時は背伸びのしたい年頃の男の子達がみんなこぞって彼の真似をしてた。

「でもネタにしてるぐらいじゃ“弱点”とは言えないわよねー。言うこと聞かないとバラしちゃうぞ、とか言っても、“結構ですよ”って言われちゃうわけでしょ?」

 その場にいない他人の話ってなんでこんなに盛り上がるんだろう。私の言ったタトゥーネタが口火を切って、みんなてんでバラバラに“こんなネルスターは嫌っ”て話を始めた。

 好きな子に振られてストーカーになるネルスター、道端でつんのめって水溜まりに突っ込むネルスター、女を怒らせて頭からグラスの水をぶっかけられるネルスター、などなど……。たしかに笑えるけど、私としてはどれも全然想像するに難くないものだった。全然ありえると思う。(さすがにストーカーになることはないかと思うけど。)みんなネルスターのこと、神格化しすぎなんじゃないかなぁ。

 とは言え、興味津々のみなさんに質問攻めにされることから解放された私はちょっとほっとした。

 しかしほっとしたのも束の間。

「……それで?彼の弱点ってほんとは何だと思う?とっておきのネタはないのかしら。」 盛り上がってるみんなをそっちのけて、正面に座った女性が私の瞳を覗き込むようにして言った。口の端をちょっと持ち上げて、興味津々という笑みを作って。

「うーん……」

 彼女が真剣な様子だったので、私も今度はよくよく考えてみた。

「一つは、やっぱり性格上のものかな。あの人冷静なようでいて熱くなりやすいんですよね。子どもっぽいと言うか。ムキになるとちょっと度を越しちゃうところがあるというか。」

 うんうん、と先を促すように満足気にうなづく彼女。綺麗な人だけど、この人なんて名前だっけ。

「あとは……やっぱり社長かな。ほとんど恋してるみたいに社長に献身してますよね。これ、みんな知ってると思うけど。」

 これはけして誇張などではなく、彼は社長のためならば喜んで命も差し出すだろう。

「あっ、あとそう言えばいつか、ネルスターに怖いものってあるのって聞いた時、意外にも“親父”って答えました。地震よりも雷よりも親父が怖いって。」

 ネルスターのお父さんっていったい、どんだけ怖い人なんだろうって思った。

「……キールさんって、アヴェンジャーに入社したの、最近よね?」

「え?……ええ、そうです。って言ってももう2年ほどたちますけど。」

 突然なんだと言うんだろう。

「じゃあ、当然知らないよね。どうしてネルスターくんがミルティさんにあんなにべったりなのか。」

「えっ……?」

 彼女はくすりと笑いながら、困ったような顔をして言う。

「なんにも知らないのね。まぁ無理もないことだけど、そう言う話って、極力アヴェンジャーの人たちの周りではしない方が身のためだと思うわよ。」

「え……」

 どういうことだろうと思って聞き返そうとしたら、急にみんながなんだかざわざわし始めた。

「じゃあ今日のところはそろそろお開きにしましょうー!明日からもまた研究所に缶詰めですからねー。このままラボに戻るって人は僕と一緒に行きましょう。清算は後日。っでは、解散!」

 幹事の言葉にみんなぞろぞろと席を立ち始める。私も慌てて帰り支度をしながら、彼女の顔を見返したが、彼女は何も言わず微笑んでいるばかりで、結局何も聞けず仕舞いだった。


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