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Avenger  作者: kaluha
Chapter6:リトルガール・トリートメント
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Chapter6:リトルガールトリートメント(7)


  トゥルグ村からは東西に延びる街道のいずれかに出るか、北の平原に出るか、三通りの道があって、順路としては東側の街道からミッドルーン山に行くのが普通だが、レナ様がアイゼーヌの浅瀬に行きたいと言うので、北の平原へ出ることにした。

 タンポポのような花がまばらに咲く原っぱに、ホタルのような夜光虫がゆらゆらと飛び交っている。この夜光虫集めも、パークが用意したプチアトラクションの一つだ。今も、家族連れやカップルが、網を持ったり手掴みで虫を集めたりして楽しんでいる様子だ。

 どんな仕掛けになっているのか知らないけど、作り物のそのホタルは、ドームの中にいる限りは光りを放ち続ける。体にくっつけたり、専用のホタル入れ(小さなきんちゃく)に入れたりして持ち歩くのだ。

 ドームを出る時には必ず帰さなければいけないのだが、噂によればお金を出せば一匹だけはお土産として持って帰れるらしい。外に出ると光らなくなってしまうそうなのだが。

 ホタルのちらちら光る平原の更に北に、目指すアイゼーヌ河が流れている。

「うわぁ……超きれい。」

 レナが立ち止まって言った。

 私もアイゼーヌ河がこのテーマパークで一番綺麗なスポットだと思う。

 物語のイメージそのままに、赤や青や土色をした大きな惑星が水底に沈んでいて、その周りを恒星がまたたきながら流れている。ここでは広い河幅いっぱいに水が流されていて、星の光が水に映って、より幻想的に見えるよう演出されている。

 銀河の精のコスチュームを来たおねえさんが「30分待ち」と書かれた看板を持って私たちを待ち構えていて正直ちょっと興醒めなんだけど、それは仕方がない。

「30分待ちなんて、いい方ですよ。繁忙期は一時間ぐらい待ちますから」

「分かってるって、わくわくしながら待つ時間がテーマパークの醍醐味なんじゃん」

 レナ様ったら、テーマパークは初めてのくせして、知った風な口聞くじゃない。

「レナ様は『魔女と魔法使い』、読まれたことはあるんですか?」

「だいたいは。うちに絵本が全巻あるから、小さい時読んだ」

 え、どの版ですか?挿し絵はドーラ・トムスですか?とか思わず突っ込みたくなったが、そこはぐっと我慢。

「レナ様は、どの場面が好きですか?」

「えー、好きとか別にないけど……。セターロの海で、サロメが、ベンヤミンの心臓を沈めちゃうところかな。挿し絵が、綺麗だった」

 レナが思い出すように少し遠い目をして言った。

 セターロの海の場面。主人公の魔女サロメが、恋人ベンヤミンの心を奪われることを恐れて彼の心臓を海の底に沈めてしまう場面だ。たしかに幻想的な場面だけど少し、独占的で破滅的。

「使用人は?どこが好き?」

「そうですね……それなら、被せるようで申し訳ないですが、サロメが、自らの過ちに気付いて星の海を彷徨う場面が、いいかなと思います」

 サロメのせいで力を失ってしまうベンヤミンを救うため、サロメは再びセターロの海に心臓を探しに行くのだが、ベンヤミンの心臓はすでに次の海、星の海に流れて行ってしまっている。

 サロメは困苦艱難の末、心臓を無事見つけ出し、ベンヤミンの元へ返すのだが、ベンヤミンは結局、後にアイゼーヌの乙女エルウィンと結ばれてしまう。『魔女と魔法使い』は、執筆された時代のせいか、子供向けの作品とは思えないほど、切なかったり残酷だったり、人間臭さが溢れている作品だと思う。

 私たちが並んでいるアイゼーヌの浅瀬のアトラクションはその、“エルウィン救出の巻”がテーマだ。


「お客さま、二名様ですね?ルールはお分かりですか?」

 アトラクションの入り口に立つクルーのおねえさんが私たちに聞く。

「レナ様、ルールは大丈夫ですか?」

「分かってるに決まってるでしょ」

 念のため私が聞くと、彼女は当然、という具合に言った。

「では、行ってらっしゃい。ズルをすると、魔法の書は力を失って、エルウィンは永遠に救われませんから、くれぐれもご注意を」

 精霊のおねえさんは微笑みながら手を振ってくれた。

 銀河の浅瀬には、七色の羽を持ったスプライトがたくさん居る。エルウィンは悪い魔法使いの魔法で浅瀬にある「何か」に姿を変えられてしまうのだが、私たちに課せられた使命は、この浅瀬に棲むスプライトたちと言葉を交わしながら、エルウィンが浅瀬の中のどこで、何に姿を変えられているかを当てることだ。

 それが何かを見事言い当て、魔法の書の力を使えば、エルウィンは元の姿に戻ることができる。

 質問できるスプライトは五人と決まっていて、質問は一匹のスプライトに対し二つまで。スプライトが嘘をついている場合は、魔法の書が教えてくれる。

「こんにちは。魔法使いのお嬢さん」

 一人目のスプライトは青い目の女性だった。

「ええっと、じゃあまずは……エルウィンが姿を変えたものは何?」

 レナは考えながら聞いた。ストレートな質問だ。

「この河原にあるものです」

 青い眼のスプライトはしれっとしてそんな答えを口にする。

「えっ……この河原にあるもの?そんなの、答えになってないじゃん」

 レナは戸惑う。魔法の書のページは反応しないから、嘘ではないらしいけど、このスプライトは少し意地悪らしい。

「意地悪なスプライトも時々いるんです。みんなこうじゃないですけど。……質問を変えてみてはどうですか?」

「むー……じゃあ、それって、水に沈んでる惑星?」

 原作ではエルウィンは小さな赤く光る星に変えられている。それを踏まえての質問をレナはしたのだろうが、青い目のスプライトはとことん意地悪だった。

「“それ”は指示代名詞です。惑星ではありません」

「なっ、なにそれっ!?ふざけてんの!?」

 レナ様は声を上げて憤慨した。しかしスプライトは微笑んで黙ってしまう。二つ質問してしまった以上、彼女はもう何も喋らないだろう。

「青い目に金髪のスプライトは意地悪なスプライトみたいですね。次からは外見が違う者に声を掛けましょう」

 スプライトの外見は様々。

 男もいれば女もいるし、黒髪だったり茶髪だったり、あるいは服の色や羽の形も色々。

 ただ、外見の似ているスプライトは性格も似ているという設定であるらしく、嘘つきだったり、正直者でも曖昧なことしか言わなかったり、答えにそれぞれクセがある。同じタイプの答えをするスプライトばかりに質問してもダメだし、スプライトの性格を読むのもこのアトラクションの重要な要素だ。

「じゃあ、アイツにしよう」

 今度は、白髪の渋い老人のスプライトに声を掛ける。彼は黄土色の惑星に腰掛けている。

「エルウィンは何色のものに姿を変えたの?」

 なるほど、今度は色で攻めるのね。

「黒です。魔法使いのお嬢さん」彼はか細い声でそう答えた。

「見て。」

 レナは魔法の書を示す。“嘘”と大きく表示されている。

「このスプライト、嘘つきだ」

「そのようですね。でも、よかったじゃないですか。エルウィンは黒じゃないもの、つまり色の付いたものに変えられたんですよ。これでだいぶ範囲が絞られます」

「うん。この河原で色が付いたものって言ったら、惑星か、河原に咲く花か、ぐらいよね。じゃあ……、それは、じゃなくて……、エルウィンが変えられてるものは、植物?」

「はい、そうです。白いコスモスです」

 魔法の書によれば、また“嘘”だ。

「……ってことは、植物じゃないってことね」

「そうですね。やっぱり、レナ様の思った通り、惑星のどれかと言う線が濃厚のようですね」

「じゃあ次!」

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