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Avenger  作者: kaluha
Chapter6:リトルガール・トリートメント
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Chapter6:リトルガールトリートメント(3)


 レナの日常は以下の通り。

 朝、運転手付きのお車に乗って登校、夕方、授業が終わると同じように運転手付きのお車で家に帰る。

 その後、火曜と木曜は家庭教師がやってきて、月曜・水曜・金曜はフリー。

 私達の仕事は、レナが学校から帰って来る午後4時ごろに、お宅へお邪魔し、彼女の話し相手になったり、遊び相手になったりして差し上げることだった。

 ただ不思議なことに、レナは普段まったく家の外へ出かけるということがない。依頼主であるリサ・ラプランドと、その夫、つまり、レナの父親からも、勝手に彼女を外へ連れ出すことは、固く禁じられていた。おそらく、資産家令嬢と言うことで、誘拐などを警戒してのことだろう。

 しかし、それにしても、友達が家に遊びに来るとか、友人と遊びに行くとかそういうことがあってもいいと思うのだが……彼女はいつも一人だった。これでは、いつも一緒に居てくれる母親が居なくなって寂しいのも当たり前だ。

 さては性格が悪すぎて学校に友達がいないのではないか?と思って、ある時私は彼女にご学友と遊ばないのですか?と意地悪く聞いたことがある。

 すると彼女は、いつもの見下すような目付きと高飛車な調子で言うのだった。

「わたしにはリサがいるからいいの。あんな低俗なやつらと仲良くする必要なんてないし。」

 図星だったか……。

 低俗なやつらねぇ。

 パレットでは小学校までは全国民が一律同じ公立の教育機関で教育を受けることが義務になっており、私立の小学校というものがない。成績やお金で振り分けられるようになるのは中学からだ。だから、ラプランド家のお嬢様と言えど、一般の子ども達と同じ小学校に通うことを余儀なくされているのだ。

 だけど、それはただの言い訳にしか聞こえなかった。

「はぁ……」

 私は思わずため息をついてしまった。なんとも、大変なお嬢様だなぁ……。先が思いやられる。


 レナの一番の趣味は縫製だった。

 グラビアを読むかネイルや美容のお手入れをしてるか、それ以外の時間はたいてい、高そうな生地をふんだんに使って、色々な創作をなさっていた。

 したがって私たちの仕事もそのほとんどが彼女のその素晴らしきアートワークのお手伝いだった。

 性格は性悪だが、たしかにお洒落のセンスは抜群だし、なかなかどうして小学生だてらに、パラミノのブティックに入ってても遜色そんしょくないようなアパレルを作っている。

 ちょっとこれ持ってて。ここ切って。こことここの長さを測って。

 ちょっとでも彼女の意図に沿わないことをすると容赦なく怒られる。「あんたマジ使えない。」何度そのセリフを吐かれたことか。

 そして、材料が足りなくなったりすると、私をすぐパシリに使う。

 恐ろしいことに、始めのうちレナ様が見せていたクールでそっけない口調と距離感はどうも単に彼女が人見知りしていただけのことだったらしく、私たちが通う日数が重なり彼女が私たちに慣れるにつれ、彼女の態度はますます横暴になり、かつその口の悪さと言ったらひどいものだった。

「何度言ったら分かるワケ?ヘリンボーンの新色っつたでしょ?これは旧いグリーンなの」

「申し訳ございませんお嬢様。すぐに正しいものを買い直して参ります」

 一週間もしないうちに私は、体育会系企業の営業職員よろしく機械的な“申し訳ございません”がすらすら言えるようになってしまった。

 レナ様の指令はとかく細かく難解で、少しでも違っていたら容赦なく叱られる。そしてそのお店がどんなに遠いところでも、こちらの労力や手間など考えず、思いついたタイミング、必要になったタイミングでパシらされる。

 片道1時間以上掛かる街の超人気洋菓子店で、2時間並んで買ったケーキが「美味しくない」と一蹴され、もう一度行って別の品を買ってこいと言われた時には、思わずケーキをその整った顔に投げ付けてやりたい衝動に駆られたが、さすがにこらえる。

 たぶん彼女にとって私は“モノ”に過ぎないんだと思う。指示したらその通りの行動を行なうのが当たり前。“モノ”に対して遠慮したり思いやりを持ったりすることが出来ないのも、まあ仕方ないことなんだろう。でも私は、自分の子をこんな風に育てたいとは思わないなぁ。


「あんたバカ?」

「まじ使えない」

「一回死んできたら?」

「いや、むしろ死んで」

 夜半近い時刻のスカイウォーカーに揺られながら、レナ様の口癖の真似を競い合うのが私とネルスターの日課だった。

 しかし、彼女のように相手を絶望の底に叩きつけるような物言いは、我々庶民に到底真似のできるものではなかった。何しろ彼女が超絶美少女であるだけに、その口からゴミのように吐き捨てられる悪態たちにはえも言わぬ凄味があった。

「それにしても、あんな小さい女の子にアゴで使われてあげくバカだのゴミだのなんだの言われてるなんて、いいネタだわ。」

「違いない。」

「あんたはいいじゃない。なんかお嬢様に好かれてるみたいだし。」

 承服しがたいことの一つが、ネルスターがレナ様から一目置かれていることだった。

 レナは私に対してつくようなひどい悪態をネルに対しては絶対しないし、パシりに使われるのはいつも必ず私。その辺はさすが上流階級の令嬢だから、くみし易い人間とそうすべきでない人間とを嗅ぎ分ける鼻があるのかもしれない。単にネルが気に入られただけってこともあるのかも知れないけど。

 たまにレナ様がお出かけする時も、

「あなたは付いてこないで。あなたみたいな野暮ったい女、連れて歩くの恥ずかしいから」

と言って、傍らにネルスターを引きつれて出ていく。

 そしてお留守番の私は彼女に命じられた、時間内ではとても終えることの出来ない量の内職を一人こなしながら淋しく待つのだった。

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