表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Avenger  作者: kaluha
Chapter1:プロナの大迷宮
8/98

Chapter1:プロナの大迷宮(3)


「あれ?」

 またティナが変な声を出した。今度はなんだって言うんだ?

「どうしたの?」

「いや、この壁をみてください。」

「な、何これ…」


 燐光を放つのっぺらぼうの白い壁に、真っ赤な文字が書かれていた。

 血のように赤い塗料で、文字、と呼んでいいのかも分からない、マークのような、だが、なぜか不安な気持ちを感じさせる象形。

「古代文字かなんかか?」

 私とティナの間から首を出して後ろからネルがつぶやく。

「分かりません…ボクもこんな文字は見たことがない。回路とも違うし…」

「だいたいこの壁、塗料やなんかは全部吸い取っちゃうんじゃなかったのか?」

 たしかに、さっき私たちが書いたチョークの黒は白い壁に吸い取られたはずだ。

「特別な塗料なんだろうか…」

 ネルスターがためらいもなくその赤い模様を触る。

「ちょ、ちょっとやめなさいよ。」

 呪いみたいなものだったらどうするんだ。

「うーん、明らかに壁の上から塗料を塗ってるよな。」

「いちおう、メモっときます。」

 ティナはノートを開いてさらさらっとその模様を写した。

「悔しいなぁ。ボクの知識の範疇を超えてます。せっかく来たのに調査らしい調査もできなさそう。」

 ティナが不本意そうな口調で言った。

 ティナは名残惜しそうにマークを見ながら、しかたなく再び歩き出した。

 振り返ると、白い壁の中にくっきりと浮かび上がるように見える赤い文字が、なんとも不吉な感じだった。

 迷路はまだまだ続く。


「あ、またです。」 

 しばらく行ったところで、またもや壁に赤い文字が書かれていた。

 ティナはまたそれをメモるが、先ほどの文字とは少し形が違った。でもなんとなく気味が悪いのは同じだ。

 赤い文字は、迷路の中を、いくらかの間隔をあけながら何度も現れた。

「うーん、なんなんでしょうこの文字は。何かを示しているのか、何かの仕掛けなのか…」

 ティナは文字を見つけるたび、首をかしげ、せっせとメモを取った。

「書かれている場所に、なにかの法則があるのかとも思うんですが…それもわかんないなぁ。」

 ティナは地図とにらめっこして言う。

 マップには、赤い文字が書かれていたところに赤く印がしてある。確かに、文字が現れる場所はまちまちで、そこに何かの法則があるようには見えない。

 

 しかしそれにしても、いつまで続くのだろう、この迷宮。

 さっきからずっと、じわじわ胸を締め付けるような嫌な感じがしている。

 白状するとかなり怖い。

 なぜか、誰かにずっと見張られているような気配を感じて、私はしばしば後ろを振り返った。振り返っても、もちろんそこにはネルが居るだけなのだが。

 

 だが、長い直線の廊下に差し掛かった時だった。


「あれ…?」

 私はぎょっとして、思わず後ろのネルスターの腕をつかんでいた。

「どうした?」


「いま、あっちの方に、人影が見えなかった?」


「人影?ボクは、気付かなかったですが…」私より前を行くはずのティナが首をかしげる。

 だが今、確かに通路の先にぼおっと人影が見えた。

「シエナ・アルトゥかもしれませんよ。」

 そう言えば、迷路に夢中で彼女のことを忘れていた。私たち、彼女を救出するためにここに入ったんだっけ。

 だが、さっきから感じている人の気配は、複数いるような、ざわざわとざわめくような感じだった。

 ここには、人ではない“なにか”がいる気がする。

「オマエしょっちゅう幽霊見るもんな。またなんか見ちゃったのかもよ?古代の亡霊かなんか。」

 ネルが茶化す。

 だが、私はそれを冗談と感じられなかった。ただでさえさっきからずっと、嫌な感じがしているのに。

 このほの暗い壁といい、見張られているような気配といい、この空間、何か変だ。


 私はネルの腕をつかみっ放しだったことにようやく気づき、慌てて離した。

「別にずっとつかんでくれてても構わないけど?」ネルがニヤニヤしながら言う。

「冗談じゃないわ。」私は背筋に迫ってくる恐怖を、必死で振り払うように言った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ