Chapter5:鳥人間ティルテュ・ルゥにまつわる話(10)
リラが初めてアヴェンジャー社の人間とコンタクトを取った場所は、バーントアンバーの中心街にそびえる高級ホテル一階のカフェテリアだった。
リラは緊張していた。仕事柄、初対面の人間に会ったり話したりすることはしょっちゅうだったが、初対面の「便利屋」に会うなんて機会は当たり前だがそれほど多くない。ランスと出会って二年近く経つが、リラにはいまだに「便利屋」と呼ばれる職業の人間がどんな人たちなのかよく分からなかった。
まして相手は、消えてしまったランスに繋がる唯一の手がかりだ。
「遅くなってしまって申し訳ございません」
待ち合わせの時間に10分遅れで現れた男は、ランスが身に纏っていた雰囲気とは全く違っていたし、リラが知っている「便利屋」のどの人とも違ったタイプの男だった。
「初めまして。リラ・マクミランさんですね。アヴェンジャー社のネルスターです」
彼は上着のポケットから名刺を出しながら席に着いた。
落ち着いた色合いの上等そうな上着と、少し光沢のあるあずき色のネクタイを締めていた。ランスよりはだいぶ上品そうな人だ。
「初めまして。」
リラは名刺を受け取りながら、自分も渡した方がいいのだろうかと思いつつそのまま席に座っていた。同じ目線で見ると、意外に若い。整った顔立ちだけど、どこか冷たそうな人だ。
「ランサム・スミスをお探しだと言うことですね」
「はい。彼と最後に連絡を取ってから、もう半年以上経ちます。ずっと、彼を探していたんです」
「ミスタ・ロジャー・ボガードから話を聞いているかもしれませんが、スミスは現在我が社で働いています。詳しく言うと、わが社の研究機関の一研究員として」
リラは思わず身を乗り出しそうになった。ランスが研究員?なんて突飛な。またお得意の“変装”というやつ?
「彼は元気なんですか?いったい今、何をやっているんですか?」
彼は今どこで何をやっているのか。元気なのか。今どんな髪型をしてるのか。恋人はいるのか。何を思って生きているのか。確かめたいことが頭の中に渦巻いている。
「すぐにでもお会い頂くことは出来ます。今現在も彼は恐らく、我が社の研究所におりますので」
リラの気持ちが伝わったらしく、彼はすぐさまそう言った。
ランスに会える。やっと。リラの気持ちはいや増さりに高まった。
「ただ、一つだけあなたにご協力願いたいことがあるのです。それが、彼の今後を、決定づけることになるかもしれません。」
「彼の今後を決定づける?……どういうことですか」
リラの心に、一抹の不安が差し込んだ。ランスはどうして、何も言わずリラの前から姿を消したのだろう。その答えはまだ知らされていない。
「事柄の性質上、詳しいことをお話しすることは出来ませんが、彼は、ランサム・スミスは、とんでもないことをしでかそうとしているのです」