Chapter5:鳥人間ティルテュ・ルゥにまつわる話(7)
――約二年後。バーントアンバー、アヴェンジャー本社SSビル最上階。
「いったい、どういうことだ?ちゃんと全部説明しやがれミルティ!」
ネルスターはSSビルの最上階に乗り込むと、開口一番にそう言った。アヴェンジャーの女社長にここまで言えるのはネルスターぐらいのものだろう。
「そう怒鳴らないでくれ、私だって何も知らなかったんだ。だいたい、私がこんな悪趣味なことをすると思うか?」
「じゃあ、」
「フィクサーだ。すべて彼が勝手にやったことだ。数年前、偶然知人から話を聞き付けて、高額の資金をはたいて買ったんだそうだ」
「そういう、ことか……」
ネルスターは怒りのやり場を失って、肩を落とした。非常にいまいましいことだが、そうなってしまうとネルスターにはもう何も言えない。
「じゃあ、今回のこともあいつが?」
「そうだ。私もあの人の道楽には正直まったくついていけないのだが」
ミルティはやれやれという風に首を横に振った。
「事柄の性質上、下手に社内に広めることも出来ないし、あなただから私も全てを明かしたんだ。危険は承知している。だが、……他に誰に頼める?」
「あんたは?あんた自身はどう考えるんだよ。こんな事態に陥いるまで放置しといて。フィクサーに一言も何も言えないのかよ?」
ネルスターは苛立ちを抑え切れなかった。
「言えない」
ミルティは間髪を入れずただ一言そう言った。
どんな時にも冷静で、主観に流されず、気高く、女王のようにアヴェンジャーを率いるこの女が、あの男の前ではこうも小さくなってしまうのだ。
だがそのことに対して、ネルスターにいったい何が言えるだろう?ミルティとネルスターは共犯者だった。今日までずっと、そうだった。
「……分かった。それで、俺は何をすればいい?俺はその手の専門家じゃないし、俺に出来ることなんて何があるんだ?」
「専門家がやるべきことは、研究所に詰めている専門家がすべてやってくれる。いや、……たとえ専門家だったとしても、今のティルテュを止めるのは無理だろう」ミルティはきっぱりと言う。
「じゃあ、どうするんだよ!」
「実はもうすでに手は打ってある」
ミルティはあくまで静かな口調で言った。
「フィクサーのすることらしいと言えばらしいというか……人魚姫に恋してしまった王子を止められるのはさしずめ“人間の”お姫さま、と、言うところか?」
戸惑うネルスターに、ミルティはもう一言添えた。
「一つだけ気を付けてほしいこととして、くれぐれもティルテュ・ルゥを、殺さないように、とのことだ」