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Avenger  作者: kaluha
Chapter5:鳥人間ティルテュ・ルゥにまつわる話
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Chapter5:鳥人間ティルテュ・ルゥにまつわる話(4)

「なんだ、こりゃあ……」

 ジャングルだった。

 原生林。作り物なのか本物なのか判別出来なかったが、湿った土と、苔むす巨大な樹木、ツタが垂れ下がっていたり、扉を開けたら異世界でした、とか言うのかと思って、思わず後ろを振り返ってしまった程見事な森林が目の前に広がっていた。

 その時点で男も、よく無事で居られたものだと思う。

 くくくくくくくくくくくく……

 くくくくくくくくくくくくく……

 ふわりと、白い羽が降ってきた。

 くくくくくくくくくくくく……

 そしてそこに、このドームの主人が立っていた。

 ほとんど日を浴びていないのだろう、肌は病的なほど白く、細い腕には、恐らく魔力を制御するための奇妙な器具のような物が、たくさん張り付いていた。

 くくくくくくくくくくくく……

 だが対峙していたのはほとんど数秒あるかないかだったろう。

 扉を閉めなければ、そう思ったのは覚えている――次の瞬間、怒濤のような力の奔流が、男の全身を襲った。具体的な形を留めない、ぎらぎらとした原色のイメージ、火傷しそうな程の熱すら感じる、凄まじい魔力。

 男は咄嗟に顔面をかばうように腕を交差させた。そんなもの、気休めにもならないが。自分を失ってしまわぬように必死で耐える。さらわれたら、二度とこちらの世界に戻ってくることは出来ないだろう。


――ごめんなさい、勝手に、開いてしまったんだ

 透き通るような声が、頭の中をひらめくように聞こえた。

「おまえ、話ができるのか……?」

 頭が割れるのではないかと思う程の激しい衝撃に耐えながら、男は辛うじてそう口にした。

――そちらこそ……どうして無事なの……?

 彼女は黒目に覆い尽くされた奇妙な眼球を大きく見開いて言った。

 そりゃこっちが全力で魔力を制御してるからだよ、と心の中で突っ込みつつ、男は一か八か、彼女に一つ命令を出した。

 どっちにしろたぶん、今日のこれで自分の体も頭もダメになるだろうと思ったから、もうどうにでもなれと言う気持ちだった。

「とりあえず、目を閉じろ。それから、夜とか黒とか闇とか眠りとか、とにかく暗いものをイメージするんだ、気持ちを静めてくれ!」

 クライアントからこの仕事を引き受けたとき、研修で受けた亢進性障害の相手への対処法だった。役に立つのかどうかも分からなかったが。

 しかし彼女は意外にも素直に従ってくれた。

「暗いもの……、黒いもの……、暗いもの……、黒いもの……、」

 魔力の圧力はむしろ強くなった。闇、死、沈黙、深い沼、夜の星、月――相変わらず形では捉えがたいイメージが、男の脳裏にいくつもいくつもはじける。

 そして……、

 潮が引いていくように、ゆるやかにゆるやかに静まっていった。


「……っはぁ……っ、はぁ……っ」

 男は溺れかけてなんとか陸に上がった者のように、苦しく息をついた。

 体が激しく震えている。力を使い過ぎたらしい。

「……ったく、テメエの管理者は、魔力を増幅させることばっかり教えて、抑える方はまったく教えなかったのかよ……」

 男は荒い息をつきながら言った。

「あなた……わたしといてもへいきなのか」

 彼女は落ち着いた声で言った。黒目はもう普通の人の目に戻っている。

 彼女はその乏しい表情の中に“喜”の感情を精いっぱい示していて、その様は男が見惚れるほどに綺麗だった。何もない、純粋な美。

「さわっても、へいき……?」

「いやっ、まったく平気じゃねぇから……!」

 男は見惚れている場合じゃないと気付き、まず彼女の体に付いた魔力制御の器具を調べた。

 男は愕然とした。いずれも最高レベルのものだった。ここまでしても、ダメなのだ。これまで多額の資金をこいつの為に投じてきたカンパニーの人間達が、こいつを持て余すようになったのにもうなづける。

「いや、おい触るな。」

 彼女はおもちゃを与えられた赤ん坊のように男の肩や腕にべたべたと触った。いかん、喜ばれるとまた魔力の値が増加しかねない。

 しかし今この瞬間は、彼女に対処を施す好機なのかもしれない。ここまで来たら乗り掛かった船だ。

「いいか、よく聞け。お前の力ってのは、コントロールしようと思えばぜんぜんコントロールが出来る類のもんだ。さっき、気分を静めたら鎮まったろう?」

「しってる……」

彼女は哀しげな目をして言った。

「知ってる?」

「しっているけど、できない」

――あなたのような人を待っていたんだ、わたしはもうこどくではない

「おい、待て……っ!オレの話を聞きやがれ!」

 どこから現われたのか、幻覚か、白い羽が、ふわふわと舞い落ちてきた。

 彼女は両手を鳥のように広げて、歓びを体いっぱいに示していた。

「ちくしょう……」

 ここまでか。もう、力も残っていない――。

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