Chapter5:鳥人間ティルテュ・ルゥにまつわる話(1)
「なぁ、この建物ってさ、何の為にあんだろうな?」
「……ん?さぁ……。なんだろうなぁ。」
「気になんないのか?ここに何があるのか。」
「さぁ、別に興味はねぇなぁ。」
男はぼんやりした様子でぷかぷかとタバコの煙を吐き出している。
「なんだよ、つまんねーヤツだな。ちょっとは考えてみろよ。……たとえばさ、採用試験の内容だよ。ペーパーテストの方はまだしも、実技試験の最後のあれはなんだ?空間魔力量制御のスキルが必須事項なんてさ、絶対やべーよ。なんかハンパないもんがあるんだよ」
「うるせぇなぁ。別にここに何があろうが、どうでもいいだろう。こうやってぼーっとしてるだけで、たけぇ給料もらえるんだからよ」
「……オマエほんとに採用試験に受かったのかよ?コネかなんかか?あんな難しい試験に通ってきたヤツとは思えない体たらくだな。」
「失礼なこと言うんじゃねぇよ。オレだってこの職得るためにクソ面白くもねぇ魔術理論だの心理学だの山ほど覚えさせられたんだ。」
男は、ペーパーテストをパスするために小難しい理論と睨めっこさせられ続けたこの数週間のことを思い出し、げっそりした顔つきで言った。
実のところ男は、この建物がなんなのか、なんで空間魔力量制御なんて大層なスキルが必要なのかを知っていた。だからと言ってあえてこの男にそれを教えてやる義理などはないが。
「それより、お前、空間魔力量制御が出来るからここに居るんだろうが、マックスでどのぐらいいける?150kkぐらいか?」
男は、ちょうどいいので、いざと言うとき力を借りることになるかもしれない相棒のスペックを確認しておこうと思った。
「バカにすんなよ、試験の時は100ぐらいにしといたけど、500ぐらいは軽くいけるぜ」
「500かぁ、そりゃ、すげぇなぁ」
男は相変わらず気だるい口調で一応は驚いてやって、心の中では、まぁせいぜい300kk程度かな、とあたりをつけた。
ちょっと勇み足な感じのするヤツだが、別に害はなさそうだ。
男はタバコを足でひねり潰しながら、滞りなく仕事が済んでくれることを願った。