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Avenger  作者: kaluha
番外編Ⅰ:ミルティ閑話
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番外編:ミルティ閑話(1)

それは、キールがアヴェンジャーとなり、ネルスターと出会うよりも、ずっと、ずっと昔の話。






「アヴェンジャー社 代表取締役 ディドウ・ラマン殿」


 そんな宛名で、アヴェンジャーに一通の手紙が舞い込んだ。

 硬い、独特の筆跡。

 当時のアヴェンジャー本社――小さな事務所の一室で、いぶかしげにその書簡を眺めていたのは、アヴェンジャーの創始者であり、初代社長ディドウ・ラマン、その人だった。

 裏返してみても、差出人の名前は書かれていない。

 マジック加工がされていて、中を開ければ大変なことに……なんてことがあっても怖い、と思ったが、裏返してみても、中を透かし見てみても、何かの仕掛けがされているという感じはしなかった。

 ディドウは一応魔力をシャットダウンしてから、封を切った。


「これをあなたが読む時、私はこの世にいないと思う。」


 そんな、おかしいほど決まりきった文句が、眼に飛び込んできた。

 手紙を読み進めるにつれ、ディドウの表情は驚きと困惑にゆがみ、悩み事を抱えている時よくやるように、片手で髪の毛をくしゃくしゃとかき上げていた。

「なんだ、こりゃ……」

 全てを読み終えたディドウの第一声はそれだった。

 手紙の内容はとても簡潔だった。それは、アヴェンジャー社社長ディドウ・ラマンへの、奇妙な依頼だった。



 これをあなたが読む時、私はこの世にいないと思う。

 死ぬことそれ自体に恐れはないが、私がこの世にたった一つ残した未練、それは、今年十三になる一人娘サラのこと。

 何一つ母親らしいことをしてやれず、愛ある言葉を掛けてやることもできず、娘を残して死んでゆくことが残念でならない。

 娘の当面の身の安全と、できれば将来の世話をしてやってはもらえないだろうか。

 そして、願わくば彼女がこの先、悪の道に足を踏み入れることの無いように。

 

 これは、ディドウ・ラマン殿、あなた個人への依頼です。



「ずいぶん大物から依頼が来たもんだな……」

 ディドウが驚いたのは、何よりその依頼主の名だった。

 依頼主の名はリネイ・ロット。

 リネイ・ロットと言えば、当時のアヴェンジャーのようなしがない便利屋風情からすれば、遥か雲の上にいるような、大物中の大物だった。陳腐な言い方を許すなら、「伝説」と言ってもいい名だ。

 ディドウはアヴェンジャー社を立ち上げる前、フリーで便利屋ハンディマンをやってい時代に一度だけ、偶然彼女と遭遇したことがある。

 真っ黒な外套を羽織り、漆黒の髪を風になびかせ、全身黒ずくめの姿で、肌だけが異様に白かった。

 彼女は非常に腕のいい殺し屋だったが、それ以上に彼女を有名にしていたのは、その美しさだった。

 だが、ディドウは別に彼女と面識があるわけではない。ただ一度偶然まみえたことがあるというだけで、言葉を交わしたわけではないし、彼女のような人物がディドウの名と、アヴェンジャーを知っていたというだけでも驚きだ。

 アヴェンジャーはまだ創立間もない時期で、メンバーもディドウとその仲間数名だけという、ごく小さな無名の会社だった。

 リネイはなぜディドウなどに依頼を出してきたのだろう。見ず知らずの人間に、自分の娘の将来を頼むなんて……。

 あまりのことに、リネイの名を騙ったタチの悪いいたずらだろうと思った。

 しかし数日後、アヴェンジャーの口座に、リネイ・ロットの名で高額の送金があったことを確認した時、むしろディドウは背筋が寒くなる思いだった。

 いったいなんなのだ、これは……。


「そりゃお前、リネイ・ロットはよっぽど人を見る眼があったんだな。」

 相棒のフィクサーがサラリと言う。

「たった一度の遭遇と、その後のアヴェンジャーの評判。何より社長の仕事の選び方とこなし方。よくよく見てりゃ、たしかにお前がバカ正直なお人好しってことぐらい分かる。」

「バカ正直なお人好しだと……?」

 ディドウがムキになって言い返すと、フィクサーはにやりと笑って言う。

「実際お前、リネイからの依頼を真剣に考えてるじゃねぇか。そこいらのゴロツキだったらこんなの、タダで大金もらたぜ、ってホクホクして終わりだぜ。……でもお前はそうはできない。遺書らしきものが送られてきた上、金までもらっちまった、こりゃほっとけない……って、思ってるだろう?」

 図星だった。

 たしかにディドウの性格上、何もしないで大金が入ったラッキー、なんていって放っておくことはとても出来そうにない。

「まっ、オレでもやっぱり放っておくことはしないけどな。」

 フィクサーは凶悪な笑みを浮かべたままディドウに耳打ちした。

「リネイ・ロットの一人娘を手に入れたら、彼女が残した莫大な財産、残らずいただけるかもしれないもんなぁ……?」

「お、おい……っ!」

 ディドウは思わずのけぞるようにフィクサーから身を離した。

「さすがにそれは冗談だよ。」

 フィクサーは動揺するディドウを横目にけらけらと笑った。

 こいつの場合、ほんとに冗談かどうかわからないところが怖い。

「リネイ・ロットの娘な。情報、探しといてやる。」

 フィクサーはようやく真面目な顔をしてそう言った。

 

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