Chapter4:とある人形遣いの恋物語〈ポールの話〉(16)
次の土曜日も、イヴはいつものようにサレム橋にスタンバイしていて、ポールの人形劇が始まるのを待っていた。
目が合うと、少し頬っぺたを赤らめて慎ましやかに微笑む。
たしかに、そう言われてみると、ポールが覚えているかぎりイヴは毎週欠かさず見にきてくれている。
少なくとも、人形劇(ポールの?)の大ファンであることは否定のしようがない。セシルに言われるまでもなく、おれってすごい鈍感なのかもしれない……ポールは自嘲気味にそう思った。
「ポール。クッキー、食べてくれた?ちゃんと焼けてた?」
イヴはいつものように控えめな口調で自信なさげに話し掛けてきた。
「食べたよ。すごく美味しかった!いつも、ありがとう。」
ポールがそう言うと、イヴはパッと顔を輝かせて、こっちがくすぐったくなるぐらい、幸せそうに笑うのだった。
「よかったー。ポール、甘いものは大丈夫なのね?ポールって、何が好きなの?」
イヴが畳み掛けるように聞くので、ポールはたじろいでしまった。
「え……そうだなぁ、あんまりベタベタしたものは得意じゃないからやっぱり、クッキーとかかな……」
「ほんと?私、凝ったものとか作れないけど、クッキーなら簡単だから、また焼くね」
「いや、なんか申し訳ないし、そんな、ほんとたまにくれたら、それで充分だから。」
ポールが慌ててそう言うと、イヴはとたんに顔を赤らめてあたふたと言い返す。
「そ、そうだよね。私の焼いたお菓子なんて、そういつもいつももらったって迷惑だよね」
「ああいや、そう言う意味じゃなくて……」
でもイヴはポールがフォローしようとすればするほど赤くなってしまうのだった。
参った。これは、これはほんとにまずいことになってきたかもしれない……。
確かに、これまでの色々なことを思い返してみても、今までポールがまったく気付いていなかっただけで、イヴはいつも、いじらしいぐらいに一生懸命、ポールのことを見ていてくれたのだ。
ポールはここへ来てようやく、そのことに気がついたのだった。