Chapter4:とある人形遣いの恋物語〈ポールの話〉(14)
ポールはずっと、ひとりぼっちだった。
たった一人の家族だった、優しくて真面目な父親は病気であっけなく死んでしまった。ポールひとりを残して。
取り残されたポールは、何をすればよいのかも分からず、がらんとした部屋の中、膝を抱えて、ただ日の過ぎていくのを静かに見守っていた。
このまま、誰に知られることもなくひとりぼっちで死んでいくのも悪くはないかな、と思っていた。
だってポールには、自分の存在する意味も、自分が何者なのかも、さっぱり分からなかったから。
――一日がたち、一週間がたち、一ヵ月がたち、どれだけの時がたったのか分からないぐらいそうしてじっとしていたら、ふと、父親が死ぬ間際に言った言葉を思い出した。
「すまんなぁポール、お前を一人ぼっちにさせちまって。……だがポール、忘れないでほしい。お前がこの世に生まれてきたことには、きちんと意味があるんだよ。おれはずっと一人だったが、お前が居てくれたおかげで、ちっとも寂しくなかった。お前には、人を幸福にする力がある。人を、喜ばせるんだ。一人でも多くの人を幸福な気持ちにさせることが出来たなら、お前の罪は許されるだろう。私は、そう願う」
ある時ポールは、部屋に散らばっていた木切れや、父の使っていた道具を手に取って、人形を作り始めた。
人形は思いのほか良い出来で、ポールは満足してそれを自分の隣に座らせると、その子に友人を作ってやった。父親、母親、おとうと、いもうと。そうやってポールは、ひとりぼっちの寂しさを紛らわすために、ひたすら人形を作った。
一週間がたち、一ヵ月がたち、一人暮らしには広すぎる家の中を埋めていくように、人形はどんどん増えていった。
そしてある時ついに、ポールはお気に入りの人形を連れて街へ出た。
ほどよい人通りのあるサレム橋のたもとで、人形達のためにささやかなステージを用意してやった。
道行く人々は時折足を止め、ポールの人形劇を見てくれた。そして、微笑んでくれた。
人を、喜ばせることが出来た。
ポールは夢中になって、毎週毎週サレム橋に通うようになった。楽しくて仕方がなかったのだ。
自分に出来ることなんて、人形を作ることぐらい。
だけど、人を喜ばせることは出来る。
これが、自分が生まれてきた意味なのかもしれない。
彼女に出会ったのは、そんな時だった。