Chapter4:とある人形遣いの恋物語(11)
ポールはショックから立ち直れない様子で、しばらくうつむいていたが――やがて、ゆっくりと顔を上げ、私とネルスターの顔を見ながらきっぱりと言った。
「……わかった。あんた達には、嫌な仕事をさせてしまったな。すまなかった。」
私はこんなにもあっさりと事実を認め、静かな声で謝罪すら口にするポールに軽く面食らった。
「もう、あんた達他人の手を煩わせることはしないよ。だから、少しの間、この部屋の外に出て、おれを一人にさせてくれないか。人形たちに、最後の別れを言いたい。そのぐらい、いいだろ?」
私は思わずネルスターと顔を見合わせていた。
突然のことに、どうするべきか分からず迷っているうちに、ネルスターが答えた。
「分かった。……キール、出よう。」
ネルスターがそう言うので、私たちはそろって寝室から外に出た。
とても、嫌な予感がした。
本当に、人形に別れを告げるだけだろうか。あまりにもあっさり罪を認めたその態度に、私は逆に不安を感じた。
私たちは不吉な予感を抱えながら、彼を待った。
しかし、待てども待てども、彼は一向に部屋から出てこない。
気が遠くなるぐらい長い時間を待った気がした。私の不安は、時を追うごとに膨らんでいった。
彼はいったい、何をやっているんだ?
「ネル……」
堪りかねた私の声に、ネルスターもうなずき、二度、ノックをした後にドアを大きく開けた。
そこで私たちは、信じられない光景を目にした。
散らばった人形たちは全て、もう二度と動くことのないように破壊されていて、その中央、ベッドの上に、金髪の美しい少女の人形と寄り添うようにして、ポールが倒れていた。
「そんな……!」
私はポールに駆け寄った。
「ポール、ポール・リンクス!!」
私は彼の体を揺らしながら必死で呼び掛けたが、その目は固く閉ざされたまま、何の反応も示さない。
そんな……。彼は初めからこうする気だったのか。愛する人形を壊されて、罪を暴かれ、自暴自棄になって、人形と一緒に死ぬ方を選んだと言うのか。
「どうしてこんな、こんなことって……」
私はどうにも遣り切れない思いに駆られた。
こんなこと……「人形を全て壊して、ポールに目を覚ましてもらいたいんです」。そう願ったイヴリン・ウォルターに、なんと説明すればいいのだろう。どう、償えばいいのだろう。