Chapter4:とある人形遣いの恋物語〈イヴの話〉(5)
それからしばらくの間、イヴの差し入れ大作戦は続いた。
イヴは焼き菓子を焼いたり飲み物を買ったり、なるべくさり気なさを装って差し入れをした。
そうしているうちにいつか、ポールとの関係が発展するよう、かすかな期待を持って。
しかしイヴの淡い期待に反して、ポールはいつまでたってもイヴのことを一人のファン以上には見てくれなかった。ポールはイヴの差し入れをいつもとても喜んでくれたけど、それだけだった。
私ってそんなに魅力がないのかな……。
イヴはすっかり自信を無くしてしまった。
季節は間もなく、秋に変わろうとしていた。
イヴはポールの為に、マフラーを編み始めた。
ポールの青い目に合うふわふわのねずみ色。
ベタだけど、これが出来たら彼に渡して、それでダメだったら、全部諦めよう。
編み進める日々が、なんだか切なかった。うまくいく気が全くしない。
サレム橋へ行くと、相変わらずポールは気さくで優しかった。
イヴは、彼の話すことば、笑い声、器用な手の指先と、暑さの余波の残る空気、そういったものを、しっかり焼き付けておこうと思った。サレム橋にもう、来られなくなるかもしれないから。
「ポール、ちょっといい?」
マフラーが完成した時には、もうすっかり秋になっていた。
人形劇が終わり、観客がひいた頃を見計らい、イヴはポールに声を掛けた。
「なに……?」
「これ、ポールにプレゼント。おうちに帰ってから、開けてね」
イヴは震える声をごまかすために、わざとおどけるように言って、そのまま逃げるように家に帰った。
手編みのマフラーなんか渡されたら、どんな気持ちになるんだろう。
気持ち悪いって思われるかな。ただの1ファンに過ぎないのに、欝陶しく思われるかな。それとも、やっぱりポールはいつもの気さくさで、ありがとうって言って、終わりだろうか。
イヴは自分のしたことに恥ずかしくなったり、後悔したり、色んな思いが渦巻いて、翌週、サレム橋に行くのが怖かった。ポールが、どんな反応をするかと。
でも、その日もポールは、いつものように普通に人形劇をして、普通に観客を楽しませていた。
そして、劇の後で彼は、イヴにそっと手招きした。
「今日さ、これから暇?よかったら……おれんちに来ない?イヴに見せたいものがあるんだ」
イヴの心は大きく高鳴った。
「行く!」
イヴは心の底にわずかばかりしか残っていなかった期待が、大きく膨らむのを感じた。
ポールは人形を入れたナップザックを背負い、二人は連れ立って歩き始めた。
「見せたいものって、なに?」
「行けば、分かるよ」
ポールの言葉はどこかぎこちなく、いつもの彼と違って、口数が少なかった。
なんだかポール、緊張してるみたい。
どうしてだろう。
もちろん緊張しているのはイヴも同じだった。彼がイヴのことを誘ってくれるなんて、初めてのことだった。