Chapter4:とある人形遣いの恋物語〈イヴの話〉(4)
「ポール、お疲れさま。今日は暑いから、ジュース買ってきたんだけど、飲む?」
「おお、ありがとう!気がきくじゃん」
イヴの差し入れ大作戦の始まりだった。
少し気の弱いイヴにとってそれは、彼に話し掛ける材料づくりとしてぴったりだった。もちろん、高感度アップも兼ねて。
ポールの人形劇は、一定の客を集めていたが、客足の少ない日もしばしばあった。特に炎天下なんかは、わざわざ暑さに耐えてまで立ち止まって見てくれる人は少ない。
「今日はもう、このぐらいにしとこうかな……」
「日がかげってきてから、また再開したら?」
「それも、そうだね。」
彼はすっかり休憩モードに入り、パラソルの下に退避して、イヴと並んでジュースを飲んだ。
「暑いねー」
パラソルの影に入っても、汗は全然引かない。
「うむ、さすがに今日は我輩も、剣技がさえぬ」
くす……ポールがしわがれた老人の声で言うので、イヴは思わず笑った。
今日の主役は英雄シャムシャーク。無敵の騎士だ。
「ポールはすごいね。こんな暑い日も、どんなことがあっても、毎週必ずここにいるよね……そう言えば、雨の日も」
シャムシャークは大げさな身振りで答える。
「そうか、イヴ殿はいつぞやの雨の日に、セシールのダンスを見たのだったな?セシールはこやつの“とっておき”ゆえ、滅多なことがなければ見られぬのだぞ」
「そうなの?」
イヴは金髪の美しい人形の優雅なダンスを思い出しながら答えた。もう随分前のことのように思えるけど、思えばポールの人形劇の常連になったきっかけは、あの時のダンスだったんだなぁ。
「なんか運命的。私、あの時、雨降りなのに頑張ってるなぁと思って、ポールに話し掛けたんだよね……。それで、ポールの人形劇が好きになったんだよ」
イヴは何の気なしにそう言って、少し恥ずかしくなった。
「そうであったか……!頑張ったかいがあったというものだな、ポール。イヴ殿のような可愛らしいお嬢さんに常連客になってもらうとは!お前もなかなかの果報者だ」
「えっ……?」
イヴは思わず過剰に反応してしまってまた恥ずかしくなった。
「こらこら、変なこと言うからイヴが困ってるだろ?」
ポールはすました顔でシャムシャークに応酬する。
「さぁ、そろそろ後半戦を始めるぞ!」
ポールはシャムシャークを持ったまま立ち上がった。
もう少し話したかったのに。
イヴは少し残念に思いながら、人形劇の続きを始める彼の横顔を見ていた。
恋人はいるんだろうか?家族は?……たぶん年齢はイヴより少し上ぐらい。人形劇で生計が立てられるとは思わないから、普段は働いてるのかな。
それとも、人形を売ったりしてるんだろうか?
イヴはまだ彼のことを、何も知らなかった。