Chapter4:とある人形遣いの恋物語〈イヴの話〉(3)
「今日は、どんな人形?」
イヴは何か話し掛けなければ、と思い、彼の背負う大きなナップザックを見ながら必死で話し掛けた。
「ん……?じゃあ、特別に見せてあげようか。」
ポールはナップザックを肩から下ろし、中から人形を取り出した。
「今日は、新作の人形を持ってきたんだ。名前はベンジャミン。年齢127歳。」
ベンジャミンはギラギラした緑色の目の老人で、真っ黒なローブに身を包んだ魔法使いだった。
「魔法使いね。すごいなぁ……」
しわしわの肌も、尖った爪も、今にも動き出しそうなぐらいにリアルだ。
「いつも思ってたけど、人形って全部手作りなんだよね?」
「そうだよ、普段は部屋に籠もって、日がな一日人形を作ってるってわけ。暗いヤツだろ?」
「ふふ……そんなことないよ、すごいよ」
イヴはぎこちない会話の中にも自然と笑みがこぼれる自分に気付いた。こんな幸運、滅多にない。
サレム橋に着いてしまうのが、なんだかもったいない気がした。
きっかけとは不思議なもので、今までまるで敵のように思えていた常連客たちと、イヴはすんなり馴染むことが出来た。
ポールがさり気なく気を回して、イヴが溶け込みやすい雰囲気を作ってくれたおかげかもしれないけれど。
「じゃあ今日は、皆勤賞のイヴちゃんに、ちょっとベンを動かしてもらおうかな!」
ポールの指名を受けて、イヴは初めてポールの人形を触った。
「こうやって、この棒を動かすんだ」
ポールは隣で羊飼いの少年を動かしてみせながらイヴにやり方を示した。
「こ、こんな感じ……?」
イヴの持つ棒に繋がった糸に操られ、魔法使いベンジャミンがぎこちなく歩きだす。
「うんうん、なかなかいい感じ」
ポールに、人形の使い方を教えてもらっちゃってる……!緊張でカチカチになっているイヴに、観客は暖かい拍手をくれた。
僕も僕もと群がってくる子どもたち。ポールはいつもの気さくさで、上手に子どもたちの相手をする。
ポールは本当に楽しそうで、彼が人形劇と、そこに集まる人々のことを本当に愛しているのだと言うことが、ありありと感じられた。そして今日はイヴも、その輪の中に入ることができたのだった。
その日はイヴにとって、最高に幸せな一日となった。