Chapter3:弱虫ヴィンスの逃亡劇(14)
「カ、……カレンサン……、アチラ……」
「え、何?」
回路複写作業を開始していくらか経ち、私もだんだんコツがつかめてきた頃だった。
ヴィンスが後部座席で何やら言っているので、彼の指の指し示す方を見ると……
「ネル……!あれ、特察のパトカーじゃない……!?」
私は意味もないのに思わず体を伏せながらネルに示した。ぎりぎり肉眼で確認できるぐらいの距離を、青い車が数台、地平線を走っていくのが見える。
背筋がひやりとする。向こうはまだ、こちらには気付いていないようだが。
「……あとちょっとなのに」
ネルスターは手を止めることなく、ちらりと遠くを走るパトカーに視線をやりながら言った。
「キール、ちょっとどけ。」
ネルスターは私が途中まで書いていた魔法陣を引き継ぎ、ものすごい勢いで仕上げていく。
「ネル、早く……!」
私はじりじりしながら青いパトカーの影を目で追った。おそらくサンドストーンの方角へ、数台が連なって走っていく。
「よし、たぶん、これでいけるはずだ。」
「ほんと?」
ネルが手をかざす。蝋燭に火が灯っていくように、回路に光が広がっていく。しかし……
「おかしい、左翼部分が機能してない。やべぇな、どっかが足りてないのか?」
ネルはさらに回路を書き加え始めた。
「オレもこの回路を全部読めてるわけじゃないんだ。飛行機能の部分を推測して写してるだけだからな……」
ネルの声に焦りが見え始めた。
「これか?……ちくしょー何が足りないんだ」
私にはただ、見守ることしか出来なかった。
「カレンサン……!!」
ヴィンスが押し殺した悲鳴のような声をあげる。
「あれ……、ネル、動いてる、動いてるよ!」
マジック回路の放つ光が、これほど美しく見えたことはなかった。
「きたーーー!!」
するりとなめらかに走りだす機体。
信じられない。この短時間で、鉄の固まりを飛行・運転する魔法回路を作っちゃうなんて。
「ネル、あんたってやっぱ天才よ……!!」
私は感動のあまり思わず隣の席のネルスターに抱きついてしまった。
「こら、危ねーだろバカ!」
ネルは最高速度ぎりぎりまで魔力をあげた。
パトカーは光のような速度で荒野を走っていく。先程パトカーが見えた場所は、もはや遥か後方に消えていった。




