Chapter1:プロナの大迷宮〈シエナとミカヤ(4)〉
季節は巡り、二人は第三学年に進級した。
三年生になると、進路によってクラス分けがされる。ほとんどの生徒は普通科の高校は行くのだが、それ以外の特殊な専門学校などへ進むものや、就職するものは、それぞれでクラスが作られる。
シエナは、ライトフォーリッジの図書を継ぐために歴史学を専攻したのだが、同じクラスの名簿に、ミカヤ・ファーレンの名を見つけた時には心底驚いた。
「ミカヤは就職するんだと思ってた…」
たしか、勉強を続けるよりも、早く社会に出てひとり立ちしたいというようなことを言っていた気がするのだが。
「柄じゃないよね」
ミカヤは照れたように誤魔化し笑いをした。
「オレ、国立の学院に行こうと思って…」
「国立の学院?」シエナはさらに驚かされた。
「国家試験…受ける。」きっぱりと告げたその言葉。
そうか。シエナはそれを聞いてすぐに思い当たった。
ミカヤは、歴史学者になるつもりなのだ。政府公認の。
シエナも免許を取ることを考えたことがあったので知っていた。
政府は歴史研究、特に古代魔法に関する研究を民間に禁じている。歴史の研究をするためには国家試験を受けて、政府公認の研究者になり、政府の研究所に所属するしか方法はない。
だが、そのためには、まず国立学院に合格するだけでも、それこそべらぼうに難しい。その上、さらに国家試験という関門が待っている。
「笑えるだろ、オレみたいな頭で」
ミカヤは今度は自嘲するように、もう一度笑った。
もちろんシエナは笑わなかった。
たしかに、正直彼の今の成績でそれを目指すことにはそうとうな努力が必要だろうと思う。
だが、そのことに、どれだけの思いが込められているか、シエナには痛いほど分かった。彼は隠された本当の魔法の姿、本当の魔法の歴史を知りたいのだ。
「応援する。」シエナは心からそう言った。
「シエナは?このクラスに居るってことは、やっぱり歴史系の高校にいくの?」
「ううん。」シエナは首をよこに振った。
「私は、受験はしないの。高校には行かないで、ここで、ライトフォーリッジで、やらなければならないことがあるから。」
本当はシエナも、ミカヤのように魔法を研究する学者になりたかった。
でも、シエナにはライトフォーリッジの図書を受け継ぐ者として、ここで、やらなければならないことがあった。
だから、ミカヤが歴史学者になってくれるなら、自分がやりたかったけれど、出来ないことを彼に託することができる。
それからミカヤは、人が変わったように勉強を始めた。
図書にも来なくなり、もう以前のように、ラウンジで二人語り合うことはなくなった。
シエナはそれを寂しく思いながらも、二人が出会った頃のように、少し離れた席で、彼の後姿を見ているだけだった。
でも、そんなミカヤは、格段に格好よかった。