Chapter3:弱虫ヴィンスの逃亡劇(12)
「そうか……もしかして、自動帰巣装置が働いてるのかも……!」
「自動帰巣装置?」
「パトカーって、運転士がダメになった時とか、異常事態とか、もしものことがあった時、オート運転に切り替わるシステムが付いてるの」
車の運転なんて特殊技能だから、訓練を受けて免許を持ってる運転士にしか普通は運転できないものだ。(ネルは異常。)だから、緊急時にはオートに切り替わるようになっているものが多い。
きっと、さっきの異常な運転で、車が勝手に緊急事態だと判断してしまったんだろう。
そしてその行く先は……
「たしか、オートで近くの駐在所まで連れてくのよ!このままじゃ私達、問答無用で最寄りの警察署まで連れてかれちゃう!」
「……元特察のオマエが言うんだからホントなんだろうな、ちくしょう」
ネルは完全に運転を放棄して、運転席を探り始めた。「なんとか、その帰巣装置とやらを解除する方法はないのか……?」
「分かんない。私もこんなことになったの見たことないし」
「せめてどれがその帰巣装置の回路か分かれば……そこだけ魔力を停止すればいいんだが」
しかし、運転席にはハンドルにも座席にも天井にも、そこかしこに複雑な回路が書き込まれている。その中からどこが帰巣装置なのか特定して、解除するなんて、さすがのネルスターにも無理だろう。「さすがに飛行のマジックは複雑だな。昔、なんかで見た気がするんだけどなぁ……」
そうこうしているうちに我々は刻一刻と警察署へと近づいている。時間がなさすぎる。
「ネル、無理よ!別の方法を考えましょう……!」
パトカーを乗り捨てて、別の方法を考えた方が、いくらか救いがあるかもしれない。
「そうか、分かった、とりあまず魔力を全部止めればいいんだ」
ネルが冗談みたいなことを言って……
「ぎゃーーーーー!!」
私とヴィンスの叫び声がハモった。
低空飛行していたパトカーは動力を失い、地面に斜めに突き刺さっていくように落下、不時着、余った勢いで地面を豪快に削りながら、ようやく停止した。
「あんたは、ほんとに、なんてことをするのよ!」
「悪い。でもこれでゆっくり解読ができる」
ネルはしれっとした顔で回路の解読を再開した。
「でもネル、今見つかったら私たち、一貫の終わりよ、逃げ場がない」