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Avenger  作者: kaluha
Chapter3:弱虫ヴィンスの逃亡劇
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Chapter3:弱虫ヴィンスの逃亡劇(9)

 部屋の中に人影はない……ように見えたが、複数の人間の気配がする。

 私はM・ガンを構えた。と、ほぼ同時に、一瞬、妙な気配を感じた。

 以前にも感じたことのある……ぴりりとまとわりつくような、吐き気をもよおすような、そんな気配がして、

「からだが、……動かない」

 私はそのままの姿勢でその場に立ち尽くした。

 計ったように物かげから姿を表す男たち。案の定、特察官だった。

 特察に居たことのある私は知っていた。これは、いわゆる「邪魔」の一種だ。人の神経にダメージを与えて、その体の動きを止めるマジック。

 だが、みなさんご承知のとおり、「邪魔」は法律が定めたマジックの「三つの禁忌」の一つだ。

 「邪魔」は人体に与える影響が著しく大きいので、使用を厳しく禁じられている。

 それなのに、警察官は犯人逮捕の場合にのみ特例的に使用を許されているのだ。

 この辺りがまたパレット政府のズルいところで、そんな伝家の宝刀を使われてしまっては、一般人にはとても太刀打ちできない。

「これは参ったわね……」

「なかなかてこずらせてくれたものだ」

 特察官たちはやれやれと言う感じでおもむろに手錠を取出し、銃を構えたままの姿で間抜けに突っ立っている私の身柄を拘束しようとした……

「なんてね」

 私は頃合いを見計らってマジックブーツを思い切り蹴り上げ、今まさに私を取り押さえようとしていた特察官二人に不意打ちを食らわせてやった。気持ち良く吹っ飛ぶ男たち。

「な、……どういうことだ?」

 さすがの特察官もこれには少し焦ってくれた様子。

「私ってこういう、トラップ型の魔法って効かないらしいのよね」

 基礎魔力量が少ないことで、唯一良かったことは、これぐらいかもしれない。

 いわゆるトラップ型とかスイッチ型とか言われる魔法は、仕掛けてある魔法陣に、相手が触れるとか踏むとか一定の行動をするとか、何らかのことでスイッチが入り、効力を発動する。

 スイッチを入れるのは、魔法陣に掛かった人間が無意識に放っている魔力だ。

 だから、魔力の基礎代謝が一般の人より極端に少ない私は、普段放出している魔力も人より少ないらしく、トラップも不発に終わってしまう、らしい。

 トラップに掛かった瞬間、ちょっと変な感じはしたけど。

「ヴィンス、逃げるわよ!」

 私はすかさず後じさってヴィンスの手を取った。

 ヴィンスのメモを見た時から、こういう結果が待っているのではないかと予想はしていたが、それでも一か八かここまで乗り込んだのにはそれなりの理由がある。

 こうなったら、……パトカーをジャックするのだ!

 無謀な方法だとは自分でも思うが、この八方塞がりの状況を打開出来るとしたらそのぐらいしか考えられない。

 パトカーなら、もしかして政府の監視に引っ掛かることなくサンドストーンまで走ることが出来るかもしれない。


 だが、ヴィンスは動かなかった。

「カレンサン、ワタシ、イキマセン」

「……は?」

 私は思わず間の抜けた声を出してしまった。

「スミマセン……」

 その時私も構わず逃げるべきだったのだが、私が一瞬戸惑ったその隙を突いて、特察官の渾身のパンチが私のみぞおちに入った。

「……!!」

 声も上げられずその場にうずくまる。

「スミマセン!」

 足元に転がった私を見て、ヴィンスは泣きそうな声で繰り返し謝った。

「スミマセン、ワタシ、アナタダマシマシタ」

 騙した……?

「……そういうことだ。こんな、脱走した外国人など、すぐに捕まえられるのに、なぜそうせずに泳がせたと思う?」

 なぜって……つまり、ヴィンスを逃がしたのは意図的だったということ?

 私も変だとは思った。

 あの時。ヴィンスがアヴェンジャー社のビルに逃げ込んで、社長に冷たく追い返された後、どうしてこの人は、あれだけの人員で追跡を掛けていた特察官の網をかいくぐり、しかもスカイウォーカーに乗って、私の家まで逃げてこられたのか。

 そうかあの時……あの時、ヴィンスと特察との間に「取引」がなされたのだ。

「アヴェンジャー、ダマセバ、ニガシテクレル、イワレテ、アナタノ、トコロ、イキマシタ。ワタシ、クニ、カエリタカッタ」

 私は地べたに這いつくばり、顔を上げることも出来ず、頭の上から降ってくるヴィンスの言葉を聞いた。

 けんきゅうじょのどうりょうがおしえてくれました。あべんじゃーのことおしえてくれたひとです。でも、あなたがにげるほうほうをしっているならひつようないとおもいました。だから、あなたにまかせようとおもいました。

 私が逃げる方法を知っているなら必要ない、私に任せようと思った…、だけど、それがどうも頼りなく、無理なようだったので、彼は結局、特察の言う通り私を騙すことにした、

 なんて、情けない話。情けない。

 私は痛みも忘れて、笑い出しそうだった。

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