Chapter2:鬼退治(完)
「少年、どうして…お父さんを?」
私はぶしつけにも聞かずにはいられなかった。
「みんな、父さんに苦しめられてたんだ。村の人も、オレの母さんも……。」
少年は苦しそうに目を伏せる。
「警察も頼りにならなかった。みんな何かしらこいつに借りがあるとかで……。オレが、なんとかしなきゃって思ったんだ。」
こんな辺境の小さな村だ。一人の権力者が傍若無人を働いたって、おさえる力が働かなかったのも無理はないのかもしれない。
「みんな、オレをかばってくれたんだ。オレは、はじめの人が殺された時点で警察に自首するつもりだった。でも……マジックの罪って重いだろ?だれかがアヴェンジャーって会社を知ってて。」
それで、みんなでアヴェンジャーに依頼を出したわけか。
政府や警察に力を借りられない者にも手を差し伸べる……まさしくアヴェンジャーの理念にかなった依頼だ。
「でもそうこうするうちに二人目の死者が出ちゃって……。オレは今度こそ州警察に連絡しようと思った。でも……それもできなくなっちゃって。……オレ、すごいバカだった。後悔しても、しきれないよ。」
静かな涙が、いくつもいくつも流れていった。
「少年……。」私はその震える肩を抱いてやろうと手を伸ばした。
「えっ……?」
私の手は、彼の体をすっと通り抜け、空を切った。
まさか。
警察を呼ぶこともできなくなったって……犠牲者は、二人だけじゃなかったのか。
困惑する私を、彼は涙の流れた後のすっきりとした笑顔で見上げた。
「ありがとう。」
彼はその言葉だけを残して、まるでろうそくの火が掻き消えるように、ふっと私の前から消えてしまった。
翌朝。
私は帰り支度をして宿を出た。
宿の主人には、全て滞りなく済んだから安心するように村の者たちに伝えてほしいと、言っておいた。まだ怪物の死体は洞窟にある。
主人は私に何か言おうとしたようだったが、引き止められる前に逃げてきてしまった。
空は今日も、透き通るように晴れている。
最後にもう一度海が見たいと思って、砂浜へ降りた。海岸線がきらきらとまぶしい。
と、向こうから男の子が歩いてくる。
まさかと思って目をこらしてみたが、やっぱり彼だった。
「おねえさん、ごくろうさま。」
「それはこっちの言うセリフよ。まだこんなところをうろついてたの?」
私は強いて明るい声を出した。
「うん。でも、おねえさんに言い忘れたことがあって。」
応える少年の声も、どこまでも明るかった。
「僕の家の庭に、大きな木が立っているんだ。桐だったかな、花が咲いているかもしれないよ。その木の根元を掘ってみて。ちゃんと出てくるはずだから、15ペレ。」
じゃあね、と言って手を上げかけるその前に私は言った。
「少年、名前を聞いてなかったわ。」
「アノルドだよ。アノルド・ハーネット。」
「あっ、そっか……。」私は思わず笑ってしまった。
「じゃあね、アノルドくん。」
「うん。」
彼は今度こそ行ってしまった。遠く砂浜の湾線に沿ってゆったりと。
15ペレって…わざわざそんなことを言いに出てきてくれなくともよかったのに。
「でも……そうね。手ぶらで帰ったらまた社長にどやされそうだし、せっかく伝えに来てくれたんだから、ありがたくもらっとくわ。」