Chapter2:鬼退治(2)
適当な定食屋で昼ごはんを食べてから、再び地主の家を訪れてみた。
しかし、またも屋敷は留守だった。こんな大きなお屋敷なら、執事さんぐらい居ないのか。
「しかたないわね…。」
私は再び宿へ戻り、主人に話を聞いてみることにした。
「へぇ…あんた、知り合いをたずねて来たって言ったけど、まさか地主さんのことかい。」
主人は目をまるくした。
「何度尋ねても留守みたいで……。」
「ああ、そりゃ、あいにくさまだな。地主さんなら、一週間ほど前からどこかへ出かけているのか、ずっと姿が見えないみたいだからさ。まぁ、あんな奴、居ない方がせいせいするけどね。……おっと、こりゃ失礼。」
「一週間……?」
変な話だ、私は部屋に帰り、もう一度資料を見てみた。
やはり、依頼主はブルースプルスのアノルド・ハーネットに間違いない。
しかし、依頼が来たのは昨日のことなのだ。
アノルド・ハーネットは一週間前にこの村から居なくなっている。
三日前の事件が起こるよりも前のことだ。
誰かが、ハーネットさんをかたってアヴェンジャーに依頼を出したか、それともハーネットさんは人食い鬼の犠牲になることを恐れて、どこかこの村ではない安全な場所に居て、そこから依頼を出したのか。何かの事情で、警察の手は借りられないから。
しかし、それにしたって、どうして村人全員が事件を警察に通報しないのだ?
二人も死人が出ていて、自分たちも同じように身の危険にさらされているというのに。
しかたがないので、もう一度村中を歩いて聞き込みを行うことにした。
小さな村だから、聞き込みをしながらでも、一周回るのに半日で足りるだろう。
地主さんの家族構成は分かった。
妻は一年ほど前に亡くなっていて、一人息子と二人で暮らしているらしい。その息子さんも今は、この村にいないらしかった。
しかしどうも地主さん、そうとう性根の曲がった人物だったらしい。まさに金の亡者。
彼の周りでは、金銭トラブルが絶えなかったそうだ。騙したり脅したり。金を返せない者には容赦なかった。
どの人に聞いても、地主さんのことを好かないと言う。
人食い鬼の話になると、人々は決められたように口を閉ざす。
そもそも、そんな事件は知らない、と言う。
被害者の名前すら資料に書かれていなかったため、遺族に会うこともできなかった。
余計なことはしないでいいから、鬼退治だけをやってくれ、と依頼書にも、村の人々にも言われているような気がしてならなかった。