Chapter1:プロナの大迷宮〈シエナとミカヤ(6)〉
シエナの父と母は、シエナがまだ幼いころ、プロナを破壊するために、この迷宮へと潜った。
しかし、二人が帰ってくることはなかった。
シエナは幼く、まだ二人が居なくなった理由がよく理解できなかったが、二人が遺した〝願い〟だけはしっかりと覚えていた。
〝プロナ〟を、この怖ろしい兵器を、一刻も早く破壊しなければならない。政府にも、他の誰にもけして渡してはならない。この兵器が悪意ある第三者に渡り、人々の平和を脅かさないとお限らないから。
ここに、この場所に、父と母の〝思い〟は遺っていたのだ。
プロナに魔力を奪われた父と母の亡霊は、かすかに残った〝思い〟によって、シエナがどうしても見つけられなかった、プロナを破壊する、最後のキーを、教えてくれた。
だがそれを実行すれば、プロナの全機構は破壊され、機能を失う。それは、迷宮からの脱出方法を失うことも意味していることを、シエナは知っていた。だからこそシエナは、たった一人でプロナへ下りたのだから。最後のキーを実行するのは、ロンと、アヴェンジャーの人たちと、ミカヤを先に逃がしてからだ。
そして私はプロナと運命を共にしよう。
「ミカヤ。本当は私、あなたがここを出ると言ったとき、さびしくてたまらなかった。だから、あなたがここへ帰ってきた時、ほんとうに、嬉しかったのよ」
シエナは、本当は、ミカヤと一緒に居たかった。
プロナのことなど、プロナを研究して、破壊するなどということ、全て忘れてしまうことが出来たら、どれだけ幸せだったか。
全て忘れて、自らの望むことだけを叶えることが出来たなら、どれだけ幸せだったか。
でもシエナは、全て忘れてしまうことなど、出来なかった。ライトフォーリッジの最後の末裔として、プロナとのけじめをつけること、それは、シエナの責任だった。
だからシエナは、滅びゆくプロナと、自らの死をもって、ミカヤに自分の思いを伝えようと思った。
「私はあなたを信じてるから」
シエナはありったけの力を込めて、ミカヤを白い棺の上へと押し倒した。