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Avenger  作者: kaluha
Chapter1:プロナの大迷宮
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Chapter1:プロナの大迷宮(7)

 

 さらにしばらく迷路を歩いた後、突然現れた広い空間。

 その中央に、人が腰掛けられるぐらいの高さのある、長方形の巨大な棺のような白い箱型のものがある。

 

 そして、その前に静かにたたずむ男の姿があった。

 

 ゆっくりと振りかえる。

 少し長めの黒髪と、同じ色の黒い瞳が、静かな光を湛えている。


「ミカヤ…なぜ、あなたがここに…?」

 シエナの声が動揺していた。

「意外に早かったね。待っていたんだ。ここで待つのが一番確実だろうと思って。」

 その胸に光る金のバッヂはパレット政府のマーク。この男、政府関係者か。

「言ったはずよ。私はプロナを誰に渡すつもりもない。政府にも、ましてや民間の機関などには。プロナは私の代で滅ぼさなければならない。それが、私の両親が、命を懸けて成そうとしたことだから。」


 シエナはゆっくりと中央の、白い箱へと近づいていった。

 アァ―――――――――――――――――――――

 さきほどのうめき声はまだ聞こえている。気のせいか、近づいてきているような気がする。

「シエナ、もう一度考えてみてはくれないか。プロナの力を、俺たちに貸してほしいんだ。これだけの力があれば、政府にとって脅威になりうる。政府と、対抗しうるんだ」

 シエナは静かに首を振った。

「いいえ。プロナは、もう滅びるべきなのよ。せっかく世界が平和になったのに、今さらそれを乱すような力を世に出すことはできないわ」

「たしかに世界は平和になった。だけど、この平和は、俺たちが自分たちの力で勝ち取った平和ではない。政府が反乱分子を残らず潰し、抑圧し、抑え込んだ上に出来た平和だ。イタン政策が敷かれたのはライトフォーリッジだけじゃなかった。フレッシュトーンベースやローヤルフーシャ、ウィリアムバーグ。あらゆる場所で、力ある魔法使いやその血筋、マジックとは違う特殊な魔法を使う能力者たちは、戦後数十年の間に、次々に葬り去られたんだ」

 〝イタン政策〟。

 私もかつては政府側に属する人間だったから、もちろん聞いたことはある。

 戦後数十年間の間に、パレット政府が〝イタン〟と認定した者たちに対して行った、密かな、しかし厳しい弾圧。イタンの中には、そうした政策に異を唱え、既存の魔法を守るために戦おうとする者たちも居た。だがそのすべては、政府の圧倒的な力の下に滅びていった。

「たしかに私たちは犠牲になってきた。でもミカヤ、あなただって知っているはずよ。パレットが敷いてきた政策は、全て平和のためだったと言うこを。五十年前の戦争はどうして起こったか。魔法が間違った使われ方をした時、どれだけ恐ろしい結果をもたらすか。パレットはそれを痛いほど知ったから、再び悲劇が起こらないように魔法を管理する道を選んだんだしょう?」

 そう。五十年前、全世界で戦争の嵐が吹き荒れていた頃、不思議にも時期を同じくしてパレット全土で巻き起こった大戦では、魔法と魔法がぶつかり合う戦争の凄まじさ、恐ろしさを人々は痛感した。

 それゆえ、戦後立ち上がったパレット政府は真っ先に、魔法を徹底的に管理する体制を築き上げた。人が使える魔力の上限を二十圧と定め、〝回路式魔法〟――いわゆる〝マジック〟以外のすべての魔法の使用を禁じた。そして、魔法による犯罪への異常に厳しい処罰。

 そうした魔法の監視と法制によるがんじがらめな管理のもと、現在のパレットの治安は保たれている。

「たしかにシエナの言うことは事実だ。たしかに世界は平和になった。だけど、何度も言うようだがそれは、俺たち自身が勝ち取った平和ではないんだ。シエナだって昔、言っていたじゃないか?昔はもっとたくさんの魔法があったのに、それらが全て失われてしまったことが悲しい、と。魔法は本来、もっと多様な可能性を持つものだ。政府のやり方は間違ってる。このままでは早晩、魔法が力を失い、廃れてしまう時が来る。平和になった今こそ、俺たちがもう一度、過去に存在した多くの魔法とその歴史を復権させる時なんだよ。知らない間に政府に定められ、押し付けられた魔法ではなくて、自分たちで使用すべき魔法を選ぶんだ」

 この男の話はあながち間違ってはいない。私は感心してしまった。世の中のことを、こんな風に考えている人たちも居るということを。

 パレットの厳しい管理体制による治安と引き換えに、戦前パレットに無数に存在していた魔法の多くは失われてしまった。今、私たちが日常的に使っている〝マジック〟も、数ある魔法の中の一種に過ぎない。

 政府が〝回路式魔法〟をパレットの世界で唯一使用できる魔法に定めたのだって、当時それが世の中で最も多くの人によって使われていた形式で、魔力の強い弱いに関わらず扱いがしやすく、何より管理がしやすかったからというだけだ。

 この男のように、パレット政府のその強引なやり方と、厳しい監視とたくさんの規則・罰則による徹底的な魔法の管理を良しとせず、政府に反抗しようとする者も、世の中にはまだたくさんいるのだ。

「シエナ、俺達に力を貸してくれないか。この世界に、魔法の自由を取り戻すんだ」

 しかし、シエナは困惑したようにミカヤの顔を見返し、首を横に振った。

「ミカヤ、たしかにあなたの言うことは正しいのかもしれない。魔法の使用方法は、改められるべきなのかもしれない。でも、あなたは間違ってる。どうしてその為に、暴力に訴えなければならないの?こんな恐ろしい兵器なんて使わなくても、世の中を変えることは可能なはずだわ」

 あぁ―――――――――――――――――――――

 シエナの声に呼応するように、うめき声も大きくなってきた。

 すごく嫌な感じがする。

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