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童話集

ゆめのなかの、プレゼント

作者: 矢久 勝基

挿絵(By みてみん)

 あら、おねえちゃんのミミちゃんは特別張り切って、マジックで何かを描いていますよ。

『ユウちゃん、おたんじょうびおめでとう!!』

 そう。あしたはユウちゃんのお誕生日。ミミちゃんはユウちゃんのためにお誕生日会を開いてあげたいのです。

 お手製のポスターでお出迎えして、なぞかけを用意して、それに正解するとお誕生日会場のお部屋が広がっているというわけ。

 お部屋はお花が咲き乱れてて、風船とかもふわふわ浮いていて……。

 壁一面につるしたガーランドには『ハッピーバースデーユウちゃん』の文字がちりばめられていて、部屋の中央のテーブルの真ん中にはおっきなお誕生日ケーキ。そのテーブルだって七色のクロスがかけられた特別製です。

 ハートとお星さまで彩られた暗いお部屋に、ユウちゃんを手を引いて連れてきて、ハッピーバースデーを歌いながらろうそくを灯し、ユウちゃんがそれを吹き消せば一気に電気をつけて、広がる夢の世界に感激してもらいたい……。

 そしてプレゼント。お手製の、折り紙で作った、大きなお星さまです。立体的なボールがギザギザしていて、紐でつるしてくるくるっと回すと万華鏡のように美しいお星さま。

 一度おじいちゃんが作っていたのを見て、ぜひユウちゃんの誕生日に作ってあげたいと思いました。おじいちゃんの作ってたやつより大きくて、おじいちゃんのつくってたやつよりもっともっといろんな色にあふれてるお星さま。……ユウちゃんは間違いなく目を輝かせて喜ぶでしょう。

 ミミちゃんは、自分の考えたアイディアがあまりに素敵すぎて、とっても楽しい気持ちになりました。


 ところが……

 おねえちゃんとはいえ、まだちっちゃなミミちゃんは、まだいろいろなことが上手にはできません。字もヘタだし、絵もぐちゃぐちゃです。ふわふわ浮くかと思った風船は全然浮かないし、折り紙で作ったお花は、どんなにお部屋に飾っても、思った通りに咲き乱れません。

 プレゼントのお星さまだって、おじいちゃんの作ったものとは全然違うし、なんというか……折り紙を丸めただけみたいな、みっともないできあがりとなってしまいました。

 ホントはこうしたいのに、ああしたいのに、何をどんなに飾ってみても、お部屋はぜんぜんきれいになっていきません。

 ミミちゃんはかなしくなりました。折り紙を貼って貼って作ったテーブルクロスはつぎはぎみたいだし、ハートが並んでいてもちっともきれいじゃありません。

 ふと気が付いて部屋を見回してみると、夢の世界にはほど遠い、ぼろぼろの世界が広がっていて、こんなの、全然思ってるのと違いました。


 そのうち、ユウちゃんが幼稚園から帰ってきました。パーティのお部屋は今日一日借りることになっていて通行禁止ですが、帰ってきたユウちゃんは、ミミちゃんが何かを用意してることくらいは分かっていて、上機嫌です。

 こっそり部屋から出てくるミミちゃんに、ユウちゃんはお手々を洗ってから戻ってきて、

「ミミちゃん、明日すっごい楽しみ!!」

 と、笑顔満面言いました。

 それでもミミちゃんは浮かない顔です。この笑顔をがっかりさせてしまうんじゃないか。お部屋を見たユウちゃんはきっと笑います。

 かっこ悪くて、ぐちゃぐちゃで、つぎはぎだらけのお誕生日会。そんなの、絶対にイヤでした。

「やんない」

「え?」

「お誕生日会、やんない!」

「え? なんで?」

「やだから」

「でも、ミミちゃんお祝いしてくれるって言ったよ」

「お祝いなんかしたくない!」

「なんで!? お約束やぶるの!?」

「お約束なんてしてない!」

「したもん! ミミちゃんなんて大っ嫌い!!」

 ユウちゃんは、泣き出してしまいました。だけど、仕方ないんです。だって、どうしたってユウちゃんを感激させることなんてできるはずもなかったから。

 ユウちゃんが泣いてママに慰めてもらってる間に、ミミちゃんは一人でパーティをするはずだったお部屋に戻ってきました。そして、泣きながら全部全部をゴミ箱に捨てました。

 泣きながら、泣きながら、全部をくちゃくちゃにして捨てました。

『ユウちゃん、おたんじょうびおめでとう!!』のポスターも、プレゼントにするはずだったぐちゃぐちゃのお星さまも、あれもこれもすべてしわしわになって、ゴミ箱に消えてきました。


 本当はごめんなさいしたい……。

 だけど、本当のことなんて言えません。すっごくかっこ悪くなっちゃったお部屋のこととか、絶対に言えません。結局ミミちゃんとユウちゃんはその日、あまりお話しすることもなく、お布団で寝る時間になってしまいました。

(どうしたらいいんだろう……)

 お誕生日は明日です。お誕生日なのに、ユウちゃんにはプレゼントもない。ママはケーキは用意してますが、ミミちゃんが特別張り切っていたのでお部屋は何も準備してません。

 このままでは、とても寂しいお誕生日になってしまいます。

 お誕生日なのに。とても悲しい気持ちになるユウちゃんのことを考えるが、ミミちゃんはイヤでした。

(どうしたらいいの……?)

 ミミちゃんは神様に祈りました。

(神様、わたしに魔法をください。一日でもいいから、素敵なパーティを開ける魔法をください)

 叶えてくれるなら、明日からちゃんとママの言うことを聞いて、いい子になろうと思いました。ちゃんとお片付けもして、時間になったら歯も磨ける子になる、と、誓いました。


 ふと気が付くと、ミミちゃんはリビングにいました。

「あれ?」

 今の今まで、お布団で目をつむっていたはずです。でも、きょろきょろと周りを見回しても寝る時間になった時の、落ち着いたリビングじゃない。パッと見れば、自分もドレスを着ています。

 そして壁を見れば、『ユウちゃん、おたんじょうびおめでとう!!』のポスターが。

 それも、まるで本当のお店に貼ってあるようなすごいデザインです。さらに、パーティのお部屋に誘導するためのなぞかけもとっても本格的。

 ミミちゃんはびっくりして、仕掛けを確認しました。でも、それより一番気になること。

 ……引き戸の閉まっている部屋に目をやりました。パーティ部屋です。

 おそるおそる開けてみる。……ミミちゃんは、思わず息をのみ込みました。

「わぁぁぁぁ……」

 そこは、ミミちゃんの知っているお部屋ではありませんでした。

 まるでクリスマスのようにキラキラと星の舞う空間に、ふわふわと漂う色とりどりの風船。ライトアップされた壁いっぱいに広がる『ハッピーバースディユウちゃん』の文字。

 七色に輝くテーブルにはすでにバースディケーキが据えられていて、その脇には、ユウちゃんに渡すつもりだった万華鏡のような立派なお星さまが添えられていました。

 とにかくびっくりの連続でしたが、これはきっと、神様が一度だけミミちゃんに魔法をかけてくれたのです。ミミちゃんは本当に、本当にうれしくなりました。

 これなら感激させられる。これなら、ユウちゃんの大喜びするお誕生会になる。

「ユウちゃーん!」

 ひとまずプレゼントを隠し、引き戸をきっちり閉めたのを確認したミミちゃんは、家のどこかにいるはずのユウちゃんを呼びました。


 ユウちゃんもママも二階のお部屋にいたみたい。

 降りてきて、「できたの?」と聞くママに、「神様が魔法をかけてくれた!!」とはしゃぐミミちゃん。

 ユウちゃんは『ユウちゃん、おたんじょうびおめでとう!!』のポスターに感激して、ミミちゃんに抱き着きましたが、ミミちゃんとしてはこんなの序の口です。

 なぞかけを解いてもらう時間ももったいなくて、「早く早く!」とせかしながら、パーティのお部屋に誘導します。

 そして引き戸を開け放ったユウちゃんは、

「わぁぁぁぁぁ……」

 ミミちゃんと同じ顔をして、しばらくお部屋の中を眺めていました。


 ハッピーバースデーを歌って電気をつければ、部屋にはお花が咲き乱れています。

 ミミちゃんはうれしくてうれしくて、自分が誕生日であるかのように喜んでいます。

 ユウちゃんもすっごい楽しそう。まずはみんなでケーキを食べて、いろいろなお話をしながら星の瞬く部屋で遊びました。

「ありがとう! ミミちゃん!!」

「うん!!」

 極めつけは、プレゼントのお星さまです。ミミちゃんは隠していたお星さまを後ろ手に隠し、ユウちゃんの前に立ちました。

「プレゼントがあるんだよ」

「え! なになに!?」

「これ!!」

 すっと差し出した手。……でも、その時、ミミちゃんの笑顔が凍り付きました。

 思わず手を引っ込めて身体ごとそれを隠します。

 キラキラと輝くかのような立派なお星さま……はずだったそれは、いつのまにか、ユウちゃんがさっき作ったぐちゃぐちゃの、紙を丸めただけのような、みっともない折り紙に変わっていたのです。

(神様!!)

 身体を丸めてそれを隠しながら、ミミちゃんは必死に神様を呼びました。

(神様!! お願い!!)

 ……でも、手とおなかに伝わってくる感触は、全然変わりません。

(どうして!? ひどいよ!!)

 だんだん、神様に腹が立ってきました。どうして今までのことを台無しにするような意地悪をするのか。歯をなかなか磨かないからでしょうか。お片付けも怒られないとやらないからでしょうか。

「ミミちゃん」

 ユウちゃんも心配になったのか、膝を折ってミミちゃんに話しかけました。

「ミミちゃん。それ、プレゼントでしょう?」

「違う!! こんなのプレゼントじゃない!!」

「プレゼントって言ってたよ」

「違うの! こんなぐちゃぐちゃの。プレゼントなわけないでしょ!」

 そう言っても、どんなにお願いをしても、プレゼントは元に戻りません。

 でも、ふと、ユウちゃんが言いました。

「でもユウちゃんね。それがほしい」

「え……?」

「ミミちゃんが作ってくれたプレゼントだから」

 ユウちゃんは、ミミちゃんに手を伸ばしました。

「それがいい」

 ミミちゃんは、おそるおそる、それを差し出します。受け取ったユウちゃんは、やっぱり笑顔でこういいました。

「ありがとうミミちゃん」

「うれしいの……?」

「うれしいけど、なんで?」

「ホントに……?」

「ミミちゃんがお誕生日会やってくれたら、すっごくうれしいよ!」

 ミミちゃんはちょっと可笑しくなってしまいました。それにしたって、さっき作ったパーティ部屋を見たら、そのしょぼさにユウちゃんは笑うでしょう。

 でも……

 ミミちゃんは、このゆめから覚めたら、もう一度お部屋の準備をしようと思いました。

 どんなにみっともなくてもいいから、もう一度……。


 そう思った時……朝がミミちゃんを起こしました。

 ミミちゃんは特別張り切って、パジャマのままマジックを取りに行きます。

 だって今日はユウちゃんのお誕生日。大急ぎで、お祝いの準備をしなきゃいけませんからね。

ブランドや見た目ではなく、気持ち(真心)に喜ぶ人になってほしい・・・。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誕生日パーティー! 気持ちはわかります。 多少不恰好でもいいのです^_^
2024/01/27 14:40 退会済み
管理
[良い点] 張り切ってお誕生日の準備をしたのに、理想と現実の違いですっかり嫌になってしまうミミちゃんの気持ちがすごくよく分かって引き込まれました。 それでも、神様にお願いするところがいいなあと思います…
[一言] 贈り物ってそのものよりも、気持ちですよね。とはいえ結果って誰にでもわかる基準ですからねえ。子供ならなおさら。でもユウちゃんにとって「大好きな姉が作った」ってだけでブランド化されているのかもし…
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