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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彼女がいなくなった6年後の話

作者: こん

※ガールズラブの要素は殆どありません。最終的には男女です。

 今日は、彼女が死んでから6年目である。


 彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。


 ふと、首にかかった指輪を見ると彼女との日々を思い出す。


 私は伯爵家の1人娘だった。しかし、母は男の子を産めないと無能だと祖母に教えられていたため産まれてきた私を憎み、精神的に病んで行き、私が1歳の時に死んだ。母を愛していた父も私を憎む様になり、八つ当たりをする様になった。そんな父も3年経つと頭の整理がついたのか、私を別邸へと追いやった。しかし、父を恐れていた周りの人は私を避ける様になり、次第に1人になった。

そんな中、同年代の子供達が集まるお茶会に招待された。父は周りに怪しまれない様にわたしを参加させた。しかし、時代遅れのドレスにメイドも連れていない私は噂の的となってしまった。そんな中、嫌気がさして隠れる様に立ち入った庭園で彼女と会ったのだ。


「初めて会った貴方は、まだ5歳なのに驚くほどの輝きを放っていたのよね。私は一瞬で虜になった。色々言われていたはずなのに、友達になろうって言ってくれた事がとても嬉しくて、母の形見だった2つの指輪のうちの一つを渡したのよね」


 それから頻繁に会う様になった。彼女は、私の境遇を見ても避けることなくずっと友達でいてくれた。

そして、いつしか彼女の元が私の避難場所であり、一番好きな所になった。


「学校さえ、行かなければこんな事にならなかったのに…」


 学校が全ての元凶だった。彼女の輝きは多くを惹きつけすぎてしまった。


「学校は多くの人が通う場所、高位貴族や王太子も例外では無かった」


 多くの子息が虜になり、彼女に迫った。まだ、そこらの低位貴族や次男なら良かったものの、彼女に執着する域に陥ってしまったのは高位貴族や王太子だった。

 彼らの執着は彼女を困らせた。断れるはずもないのだ、しがない男爵令嬢が。しかも、それに加えて高位貴族や王太子の婚約者が彼女をいじめ始めた。


「貴方を守るために必死になってたせいだわ、大事な所を見落としてた。…貴方が追い込まれている事に…」


 1年生の時の毎年行われる卒業パーティーで、高位貴族や王太子が婚約者に婚約破棄を叩きつけた。理由は、彼女をいじめたからだそうだ。しかし、その場には彼女の姿はなかった。それもそのはず。事前に婚約破棄をすると聞いていた彼女は、3日前に高位貴族や王太子が問題行動を起こすからどうしたらよいか私に相談しており、彼女は行かずに私が行って状況を見ることにしたからだ。


 もっと私に解決できる能力があったら良かったのだが、ただの伯爵令嬢に出来る力は持ち合わせていなかった。まして、伯爵に嫌われている子に。


 パーティーから急いで帰って事の顛末を伝えると彼女は卒倒した。その後も私がつきっきりで守り、支えたが、3日後、彼女は私のいない間に自殺してしまった。



 そこでふと思い出した私は、ポケットに入れていた遺書を取り出す。そこには、3,4枚に渡って綴られた学校でのことと、私への詫びが書いてあった。


 この遺書によって明らかとなった婚約破棄の騒ぎは社交界を沸かせ、王様によって鎮められた。興味が無いため知らないが、高位貴族とその婚約者に罰があったそうだ。その後、王によって私にこの遺書が託された。最後の1枚の為だろう。


 彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。


「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」


 何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。


「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」


 突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。


「誰…それに、何故手紙の内容を」


 その男はニコっと笑った。その顔は、輝きを放っていた。私の大好きだった彼女の。


「会いに帰って来たよ、ガーネット」


 その声に呼応する様に涙が溢れて来る。何かを言おうとしても、喉がつっかえて何も言えない。そんな私の様子を見た彼女は、私の背中を支えてゆっくり話した。


「俺も驚きだったんだけど、死ぬ寸前に貴方ともっと居たかったって願ったんだ。そうしたら、神様が叶えてくれた。でもその代償か、男の姿だったんだけど。ちなみに、今の名前はヴェルディ・オルタスだ。6年前に前世を思い出してびっくりしたよ、まぁ、俺にとってはどのみち両方とも俺だっていう結論に辿り着いたから、あんまり影響無かったけど。」

「6年前に…?」

「うん。ただ、俺自身隣国の人間だったし、勇気が出なくて遅くなっちゃった。ごめん」

「いいえ、会いに来てくれて嬉しいわ」


 彼女…いや、彼は落ち着いた私をエスコートして立ち上がらせてくれる。見上げて彼の顔を見る。顔立ちは以前の彼女の面影一つ無いはずなのに、彼女の輝きを感じる。


「貴方は彼女とその、彼のどちらとしたらいいのかしら…」

「"俺"の中に"彼女"が入った感じなので、俺の方が意識的に強いと思っていただけると良いです」

「なるほど…」


 どうしたものかしらと考え込んでいると、「あの」と声をかけられる。


「突然で失礼ですが…私、ヴェルディ・オルタスは貴方に一目惚れしました」

「…えぇ!?」

「貴方に一目惚れしたのは今の俺なのですが、前世としての彼女も好意を持っていて…総じて、私は貴方のことが好きです」


 突然の告白に動揺が止まらない。


「その、考えさせてもらえるかしら…。今、頭が一杯で…」

「はい。全然待ちます」


 その後私は、彼を私の住んでいる伯爵家の離れに連れて帰った。

 告白は、素直にとても嬉しい。現に、とても彼に惹かれており、元より彼女にも少なからず好意を抱いていたので彼の思いに答えたいと思っている。

 しかし、問題があるのだ。王位継承権を破棄された元王太子が娘しかいない伯爵家の養子となり、次期伯爵とされた。普通は私が婚約者となるのだが、婚約破棄の騒動により私の意思を尊重してもらえることとなった。しかし、父に元王太子が伯爵につくまでの間に別の婚約者を作らなかった場合、強制的に元王太子の婚約者にすると決められてしまった。

 既に、元王太子が伯爵になるまで6ヶ月なのだ。様々な準備が着々と行われている為、今更私が彼を連れたところで遅いのである。


 家に着いた後、メイドに彼を客間に案内させる。きっと私が男を連れて来たと向こうに連絡が行っているだろうから、明日にはこちらに来て話をしに来るだろう。


「さて、どうなるかしら。私に別れさせようとしてくるはず…まぁ、駆け落ちも悪くないわね」


 *

「お嬢様、次期伯爵様が応接間でお待ちです」


 朝から来たようだ。とりあえず一緒にいた彼、ヴェルディには待っていてもらって私だけ応接間に入る。


「ようこそいらっしゃいました。次期伯爵様」

「ああ、こちららこそ急にすまない。急だが、本題に入らせてもらうよ。こちらに、昨日君が男を連れ帰って来たと連絡があったが、その方とはどの様な関係なのだ?」

「私の……好意を持っている方です。私はその方と伯爵家を出て行きたいと考えております」

「…君の意思は尊重するように言われているのだが、諦めてくれ。もう、私との婚約は決まったも同然の状態なのだ、今更だと撤回しずらいだろう。それに、伯爵様からも諦めさせろと言われている。」


 想定済みだ。少しでも可能性を見たのが間違いであった。元より、私は伯爵の決定に頷いてすらいない。だから今、婚約者の準備をしていた所で、どの道私が婚約を拒否するのだから変わらないだろう。スッと冷たい視線を送ると、そんな態度に驚いたのか元王太子はビクつく。そして、立ち上がって元王太子を見下げながら言った。


「では、私は此処から去りますと伯爵にお伝えください」

「な…っ、そんなの、ダメだ」

「何がダメなのですか?貴方には私を縛る権利はありません。では、さようなら」


 元王太子を背にして早足で歩く。扉を開けると、彼が待っていた。全ての用意も朝早くに相談した後に終わらせておいた為、後は隣国に向かうのみ。

 馬車に乗る手前で元王太子が走って来た。


「待て、ちゃんと考えろ。そいつに付いて行くよりも、ここにいた方が良い生活が出来るじゃないか!しかも、急に駆け落ちなど!許され無いぞ!!」

「許される必要はないんです。貴方達など、私にはどうでもいいので。あぁ、あと一つ伯爵に伝えておいてくれませんか?」

「…は?」

「貴方のことは父だと思った事はありません、と」


 そうして馬車に乗り込んだ私の後に続いて彼も乗る。慌てて止めようとした元王太子が彼の腕を掴んで引き留める。が、彼の顔を見た途端、元王太子は驚きの声を上げた。それも、嬉しい様な。


「リリア…?」


 彼は、黙って元王太子を見る。しかし、その顔は酷く歪んでいた。彼が黙っている事をいい事に、元王太子が続ける。


「リリア…君なのだね。また会えると信じていたよ。その輝き、僕が見逃す筈がない」

「……ヴェルディ、行きましょう」


 彼の腕にしがみつき、目を輝かせる元王太子を見るに耐えられなくなった私が言うと、彼はコクンと頷いて元王太子を引き離し、馬車に乗った。


「……なぜ!行くのだ!リリア!!」


 元王太子が叫ぶ。あんな未練たらたらの男を捨てて正解だった様だ。

 向かい合って座る彼が覚悟を決めた様にして窓から顔を出した。


「リリ……」

「私は、リリアではありません。私は、隣国の騎士団団長ヴェルディ・オルタスだ」


 そう言い切った彼は、清々しい笑顔でこちらを向く。窓から見やると、元王太子は項垂れていた。

 馬車が出発する。小さくなっていく伯爵家の離れを見ても、何も感じ無かった。

 前に座る彼に今までで一番の笑顔で言う。


「これからの貴方との生活が楽しみだわ」






読んで下さってありがとうございます!

一部、修正と付け足しをしました

遅くなりましたが、誤字報告ありがとうございました!


↓人物設定も追加しました


人物設定

ガーネット

 伯爵家の一人娘。家庭の事情により友達のリリア以外の人に興味を持てない。リリアの言葉だけで6年を生きて来た。

リリア/ヴェルディ

 前世は傾国の美女。今は隣国の騎士団の団長をしており、国一番の力を持つ。前世で、力が必要だと思い知った為に6年間修行をして騎士団長まで登り詰めた。二人とも初恋はガーネット。

元王太子

 リリアを諦めきれずに引きずる。元々王座には興味が無かったので、廃嫡された事を何とも思っていない。初めて会った時にガーネットから何も言われなかったので、許されていると思っていた。

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