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「あの、糸さん」
「はい、なんですか? 湖ちゃん」
にっこりと笑って糸は言う。
「糸さんは兄さんのどんなところが好きになったんですか?」湖はいう。
「どんなところって、えっと」
と糸は考える。(本当はすぐに全部です、という答えが自分の頭の中に浮かんだのだけど、恥ずかしいのでそのことを言うのをやめてしまったのだ)
うーんと考えている糸の顔をじっと湖は見つめている。
そんな自分より四つも年下の女の子の視線を感じて、糸は早く答えてあげないと、と焦ってしまう。
四つ年下、と言っても側から見るとどちらかというと小柄で童顔な糸のほうが背の高くて大人っぽい顔をした湖よりもずっと幼く見える。(実際には糸は二十歳であり、湖は十六歳の女学生だった)
「……優しいところ、かな?」
と少し顔を赤くしながら糸は言う。
「優しいところ。確かに兄さんはとても優しいですね。ずっと昔から、ずっと優しいです」うんうんと頷きながら湖は言う。
「湖ちゃんは清志郎さんのこと大好きですもんね」ふふっと笑って糸は言う。
「そんなことありません。私は別に兄さんのことなんて好きでもなんでもありません」と真顔のままで、湖は言う。
清志郎の年齢は二十二歳だった。
だから湖とは六つ歳が離れた兄妹ということになる。
六つ歳が離れている兄のことが湖は小さな子どものころからずっと(もちろん今も)大好きだった。
大人になったら兄の清志郎と結婚することが湖の(ずっと変わらない)夢だった。