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第三話



 チャイムが鳴った。


 誰だろう?

 起き上がろうとすると駄目だよ!と間髪入れず止められる。

 ああ、自分は病人だったか。

 思わず出て行こうとしてしまったが、よくよく考えてみればパジャマで出るわけにもいかないだろうと言うものだ。

 おとなしく布団に腰を落ち着ける。

 その様子を見て菜々子はにこりと笑うと



「ちょっと見てくる。お姉ちゃんおとなしくしてるんだよ?」

「はいはい、いってらっしゃい」

「うん、………はーい!」


 こういうときに矢鱈としっかりとしている印象を受ける。

 七海自身、なりたくてなったわけじゃないのだろうが、この歳にしてはしっかりしている。

 ×××はくすりと笑うと、昔の自分を見ているようだと思った。


 七海に言われたとおり、おとなしく寝てますか。


 布団にまた潜り込む。

 七海が戻ってくるまで起きていようと思ったが、そのままくたりと眠りそうになる。

 布団に入り込んだ途端、睡魔が襲ってきたのだ。


 案外、体調不良の原因は風邪だけでなく、疲れもたまっていたのかもしれないな。


 半分起きてる半分寝てる、そんな意識の状態を半ば保ちつつ、七海の戻るのを待った。

 暫くすると七海は戻ってきたが手には何かを持っている。


「お帰り、それは何だろ?」

「これ、お姉ちゃんにわたしてくださいって………ぬいぐるみ?」

「ぬいぐるみ?」

「みまいですって」


 ああ、なるほど。

 それから5分も経たないうちにまた玄関のチャイムが鳴り響いた。


 ピンポーン


「またチャイム、はーい!」


 今日はよく人が訪れるなぁ。


 そのあたりで意識が途切れた。



*****



≪友人視点≫


「はーい。あ、加藤のお兄ちゃん」

「こんにちわ、七海ちゃん。×××いる?」

「さっきねちゃったみたい」

「そっかぁ……寝ちゃったか。 どうするか」



 預かってきた品を渡すのと、ついでに顔を見ていければと思った。

 この不安な気持ち、寂しいと言う気持ち、これら全てを解消したいと思ってきたのだ。

 なのに当の本人が寝てしまっているのではどうしようもない。


 さてどうしたものか。


「お姉ちゃん、ねてるけど、上がる?」

「え、いいの?」

「うん、加藤のお兄ちゃんだから」


 にこりと微笑まれる。

 いつからだったか、七海は大型スーパーのお兄ちゃんと加藤を呼んでいたのを改め、加藤のお兄ちゃんと呼んでくれるようになった。

 それが酷く嬉しかったのを覚えている。

 なんだか本当に妹が出来たような気がしたのだ。


 七海の案内に従って、藤原宅へとお邪魔する。

 二階へと案内されるかと思いきや、意外や意外、×××は一階に寝ているそうで――×××の叔父の寝室、藤原の部屋へと案内された。


 部屋の中央に敷かれた布団の中心に、会いたかった人物の姿を見つけた――×××だ。


 よく寝ている。


「かおいろ、よくなったんだよ」

「そうだな、明日には学校来れそうなくらいには大丈夫そうだな。安心したよ、七海ちゃん」

「うん!」


 七海の頭をくしゃりと撫でてやると、加藤は×××の枕元に座した。

 枕元に座してみて気がついたが、何やらおかしなくらい枕元が華やかだった。

 ぬいぐるみが一つ、花束が三つ、果物がメロンにぶどうに桃、エトセトラ。

 他には何かの包みがいくつもある。

 なんだこれは、この部屋の持ち主である、藤原のものではなさそうなのだが。


「七海ちゃん、これ、どうしたんだ?」

「みんなが、おいていったんだよ」

「皆?」

「うん、お姉ちゃんにって言って、色んな人がきたの。くだものも、おかしも、お花も。たくさん持ってきてたよ」

「な、なんで、こんな大量?」

「あのね、こっちは今日くばられた紙のコピーって……もう同じ紙が14枚もあるの。同じのいっぱいあるから、いらないよって言うんだけど、みんな、きく前にかえっちゃうの」

「教室のやつらか。 っち、あいつら、何だかんだで見舞いに来る理由作ってきたのか」

「どうしよう?」

「あ~まあ、あっても困らないし、いいんじゃないか?」

「でも、知らない人にいろいろともらったら。お父さんにおこられる」

「あ~……でも、いやぁ、っつかプリントが14枚ねぇ、こんなもんダブってもどうしようもねーっつの」


 果物等は藤原の叔父に説明するのにも、見舞いの品で何とかなるにせよ、こちらのプリントは微妙だ。

 14枚も何故ダブったのか、説明しても×××は理解しないのではないだろうか?

 だってダブった理由は「皆さん×××サンに会いたくてプリントのコピーをわざと持ってきたみたいですよ?」っつってもたぶん信じない。

 今日一日休んだだけで学校で何があったかだって、×××は信じられないだろう。

 実際自分だって信じたくはない。

 けれどあの後だって酷かったのだ。

 廊下で人に会うたびに「×××が~」「×××は~」「ねぇ、×××先輩は~」………正直疲れた。



 もういっそ×××の無事を、お前らの目で確かめてこいよ!と途中で叫びたくなったものだ。

 ああ、そうだ、そうしよう。

 ×××にこれを全て見せれば一発解決じゃないか。

 にこりと笑みを浮かべると、七海に向き直る。


「――七海ちゃん、とりあえずプリントは積んでおこうか。まだまだ届きそうだし、いっそ全員分くるか来ないか待ってよう」

「ぜんいん分?」

「ああ、たぶんこれ、うちのクラス全員来るぞ。だから全員来るかどうか、ためしにここで待ってようよ」

「……なんでぜんいん来るの?一枚でじゅうぶんでしょ?」

「皆シャイなんだ。×××に会いに来るのに口実作らないと来れねーのよ。分かる?」

「うーん、よくわかんない。でもみんなお姉ちゃんにあいたくてプリント、もってくるんだ?」

「そうそう」


 だから、ちょっと待ってようよ。


 ピンポーン


「ハイ来た!23人目ぇえええええ!」

「えええ!何!?」

「23枚目?23枚目もってきたの?」

「何が?え、ええ?何のこと言ってるの?!」


 わけも分からないままに、クラスメイトはプリントを渡してダッシュで帰っていった。

 何やら鬼気迫るものが感じられたのだろう。


「な?!だから言ったろ×××、皆で別々にプリント持ってきたんだって」


 くるりと背後を振り返り加藤は言う。

 矢張り×××は信じなかった。


「悪かったよ加藤。でも、本当に一人一人が別にプリント持ってきてるなんて思わなかったんだよ」

「まあいいけどよ」

「お姉ちゃん、私がいってもきかなかった!」

「ああ、うん、ごめんね七海。でも23人も来るなんて普通思わないでしょ?だってプリントなんて一枚あればいいんだし」

「だーかーらー、×××に皆会いたくてきたんだって!!」


 ねちねちと二人に弄られる。

 自分はたかが風邪で休んで、何故このように見舞いの嵐を受けているのだろう?

 どこか悪くして入院したと言うのであればまだ分かるが、たかが風邪だ、これではいささか大げさにさえ感じられる。

 しかもその見舞い攻撃のお陰で友人の機嫌に従姉妹の機嫌も損ねてしまうし最悪だ。

 二人は「信じてくれないのが悪い」と未だに騒いでいるし。


「あーーーー!もう、私が悪かったです!」


 絶対に今度から休むことになんてなるものか!


 更に余談ではあるが、これでは一日たりとも休めないとぼやいたのは、プリント以外の見舞いの品々を見た後の台詞だ。

 参りました。




≪後日談≫


「叔父さんどうしたの?」


「いや、何となく身体を鍛えてるだけだ」


「そう?元から筋肉質何だから要らないと思うんだけど……ほどほどにねえ」


「ああ、ほどほどに筋肉付けておくさ。まだまだ若い奴らに負けてやらねえええええ」



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