EPISODE,15:許されるべき罪/あの日と今日の英雄
父親殺しの罪、それは自分の両親の片親を殺したということになる。
でも、「憎んでいるから」とか、「邪魔だから消した」などの周囲の批判や反感を買うような、そのたぐいてはない。
これは「救済」なんだ。
後に俺はそう確信した。
彼女は、話す前にこんなことを言った。
「正直に言うとね、これから話すことは『絶対』って言っていいほど、信じられないと思うの。それだけ凄惨な話になるって覚悟しておいて」
「あぁ、わかった。でも俺は信じるよ。さっき彩音さんが俺の話を信じたみたいにね」
「ありがと。耐えられなくなったら、遠慮なく中断していいからね」
「わかった」
そして、話は始まった。
それはあまりにも酷く、おぞましいものだったとは、このときの俺は、まだ知らなかった。
私が生まれたとき、私の視界には「母」しかいなかった。
父親はいたけど、私の前に姿を表したことはなかった。
でも、やっと私の前に姿を表してくれたときがあった。
このとき、私にはこの人しか信じる人はいなかった。
・・・母は、もうこの世にはいなかったからだ。
交通事故。
暴走した車に轢かれて、母は死んだ。
母は、私の「心」を作ってくれた人だったから、その作ってくれた私の心に、大きな傷がついた。
そんなときに、父は表れた。
母の葬式の日。
泣き疲れて、生きる力を失った目をしていたときのこと。
父は、私に対して
「大丈夫だ。お母さんに、きっと会える日が来るからな」
そういった父の表情は、どこか優しさを感じた。
でも、その優しい父親としての顔を見せるのは、これが最後だった。
「ひっ!?」
「邪魔なんだよ・・・もういい加減にしてくれ。俺はもう、お前の父親でいたくないんだよ!!」
父は、よく私を殴った。
もちろん、拳で殴られることが多かった。
けど、ひどいときはバットで殴られかけたこともあった。
そんなことがあったから、体中にアザができた。
しかも、父は「考えて)殴っていた。
それは、腕や脚にアザを作らないように殴っていたこと。
つまり、人目につかない胴体や背中に、アザを作っていた。
顔にアザを作らないように殴っていたことも、卑怯だった。
そんな父から、私はよく逃げていた。
逃げていった先は、いつも伯父さんの家。
伯父さんは、いつも私をかくまってくれた。
そして、そこへ乗りこんで来た父と、いつも口論が起きて、最悪のときには、ケンカ騒動に発展するほどだった。
(一回だけ、近所の人に警察に通報されたことがあった。それ以来、伯父さんは警察沙汰を恐れるようになった)
そして、私が七歳のとき、伯父さんが私の家に来たこの日。
この日が、父の命日になることは、私は知る由もなかった。
伯父は、その日父と晩酌を楽しんでいた。
私は、隣のリビングで寢るふりをしていた。
二人の会話が気になったからだ。
その様子が、なんとも楽しそうな雰囲気だったことを覚えている。
そして、父が席を外したとき。
私は見てしまった。
父の飲みかけのグラスに、粉薬を入れる瞬間を。
そして、それを誤魔化すかのように、新しくビールを注いだ。
やがて、父が戻ってきて、その新しく注がれたビールになんの疑いもなく、飲み干してしまった。
その数分後、父は眠るように机に伏せた。
というか、完全に寝ていた。
いびきを立てていたので、寝ていたのはわかった。
その一部始終を目撃してしまった私は、すぐにリビングから立ち去ろうとした。
が、伯父さんに呼び止められてしまって行くことはできなかった。
正直怖かった。口封じで殺されるんじゃないかって、考えてしまった私はおびえた。
そんな私を見た伯父は、優しく接してくれた。
「彩音・・・今の、見たのか?」
「うん・・・おとうさんに・・・なにをしたの?」
怯えながらも、私は問いかけた。
すると、伯父さんは子供でも分かるように説明してくれた。
「これはな『睡眠薬』だ。寝れない人のためのお薬なんだよ。いいかい?お薬って、お水で飲むものだって、知ってるだろう」?
「・・・うん・・・」
「じゃあ、眠るためのお薬と、お酒を一緒に飲んだら、どうなると思う?」
「・・・・・・わかんない・・・」
「教えてあげるね。お酒はね、飲みすぎると酔っ払って、眠たくなっちゃうって
知ってるかい?」
「・・・うん、しってる」
「眠るためのお薬と、眠たくなっちゃう飲み物を一緒に飲んじゃうとね。もう、ずっと寝てしまうんだよ。そしてね、もう二度と目覚めることはないんだよ」
この話を聞いたとき、私は泣いた。
悲しみ。
そんなのではなかった。
この涙は、嬉し涙だ。
あの痛みを、もう二度と感じる必要はない!
その事実に、私は喜んだ。
伯父さんが、また口を開くまでは。
「でも、まだ終わってはいないよ」
「え?・・・」
「今はただ『眠っている』だけ。いつ目覚めるかはわからない。けど、このまま放っておいたら、また、痛い目にあってしまうよ」
「ど・・・どうしたらいいの?」
「一つだけ方法がある。でも、それには彩音の力も必要なんだ」
「わかった!なんでもする!!」
「そうか・・・ありがとう」
そう言って伯父さんは、牛刀を取り出した。
「これを使って、今からお父さんを刺す。彩音はこのことを誰にも言わないこと、わかったかい?」
「わかった」
「いい子だ」
そして、机にふせた父の後ろに立ち、その牛刀を突き刺そうとしたその時。
父が目を覚ましたのを、私は見てしまった。
私が、それを伯父さんに伝えようとした瞬間、牛刀が父の背中に突き刺さっていた。
「ぐあぁぁぁぁぁっ!?な・・・なんなんだよ、これ!?血・・・?血なのか!?俺の!?」
刺さった場所は、運悪く致命傷にはならなかった。
でも、貫通していて、明らかに大量に血が流れ出ていた。
伯父さんたちがいた食卓が、血の色に染まっていく。
父は苦しみながらも、私に声をかけた。
「あ・・・彩音!た・・・助けてくれ、
俺は・・・まだ・・・死にたくない・・・」
その助けを求める声に、私は応じなかった。
ただ、立ち尽くしていた。
それを見た伯父さんは、私にあの牛刀を
差し出した。
「今までにされてきたことを、お前が許すなら、助けてやる。でも、許せないなら、こいつを使え。俺は、お前の罪を許してやるから、安心しろ」
私は、迷うことなく牛刀を受け取った。
不思議と恐怖はなかった。
牛刀は重いけど、それ以前に、なぜか高揚していた。
ああ、これが「殺意」なんだな。
「彩音・・・・・・何をする気だ?や・・・やめろ!」
「おとうさん・・・」
ゆっくりと近づいていった私は、ついに父の目の前まで来た。
そして、ゆっくりとその牛刀を構えた。
「彩音・・・・・・すまなかった・・・頼む・・・頼むから・・・もう・・・・・・何もしないから・・・・・・や・・・やめてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ちょっ・・・ちょっと待って!まさかなんだけど・・・。伯父さんから受け取ったその牛刀で、心臓を一突きした・・・ってこと?」
俺は、彼女の話を中断させた。
あまりにも、その酷い話は、俺の眠気を覚ますには、十分すぎた。
「うん・・・そうだよ。言ったよ、私。『人を殺した』って。ちなみに言うとね、さっき言ってたことあってるよ」
「え?何が・・・・・・ってまさか・・・」
「うん。『心臓を一突きした』って言ったでしょ。本当に心臓を貫いたんだよね」
「そこは合ってても嬉しくねえよ・・・」
「まあ、そうだよね・・・」
俺は布団の中で、こんな話聞いたあと、寝れるのか不安になっていた。
でも、それより不安なこともあった。
「心的外傷」だ。
特に、幼い頃の心的外傷やトラウマは、なかなか治りにくいという話を聞いたことがある。
俺も、他人の家族に対してそういうトラウマがある。
本当にその人は家族に受け入れられているのかなどの、「集団に認められている」のかと考えただけで、疑心暗鬼になってしまうところがある。
少し話を振り返っていると、彩音さんの様子に異変を感じた。
「彩音さん?大丈夫か?」
「ちょっと・・・あの・・・」
「え?」
「ごめん・・・今・・・顔、見ないで・・・」
「あ・・・」
彩音さんは、泣いていた。
自分の罪の重さを感じて、泣いてしまったのだろう。
そりゃそうだ、伯父さんに「協力してくれ」と言われ、自分の実の父親を、いくら自分の子供を愛していなかった父親だとしても。
人を殺すのはよくない。
その罪悪感に押しつぶされそうになってしまった。
そうに違いない。
心の傷の深さは違えど、同じ、親に酷い目にあった仲。
とでも言うのだろうか?
本当に似たもの同士なんだな、俺たちって。
「本当に、大丈夫か?」
俺は、泣いてる彩音さんに声をかけた。
いくら顔を見るなといわれたけど、そのまま放っておくのも嫌だった。
すると、なにか温かいものに包まれた感触がした。
そして、俺の胸元が湿っていた。
「彩音さっ!?」
一瞬、何が起きたか分からなかった。
理解が追いつかなかった。
疑問しかなかった。
俺は、彼女に抱かれていた。
彼女は・・・彩音さんは、俺に抱きつき泣いていた。
俺の胸元が湿っていたのではなく、彼女の涙によって濡れていた。
「ううっ・・・ふあぁっ・・・っ・・・隼斗さぁん・・・・・・ごめ、ん・・・私・・・・・・」
「彩音さん・・・」
俺は、少し考えた。
今、彼女にすべきことは何かを。
そして、俺の結論は、これだ。
「よしよし」
「っ!?・・・えっ?」
「お、意外といいな、これ」
俺は、俺に抱きついた彼女の、頭を撫でた。
「あぁ・・・・・・なんていうかな。その・・・さっきのお返し・・・ってやつ・・・かな?」
「ん・・・」
「あ・・・どうかな?」
「あ・・・えっと・・・その・・・とても、気持ちいいです」
「ならよかった」
なんとか泣き止んでくれた。
そう思い撫でるのをやめようとしたとたん、彩音さんは俺の手首を軽く掴んだ。
「ん?どした?」
「ねぇ」
「ん?」
「その・・・しばらく撫でて、ね?」
「うん、わかった。いいよ」
「ありがと」
俺はしばらく・・・というか、彼女が眠ってしまうまで、頭を撫で続けた。
「こんなに温かいんだ・・・人って」
あのとき、そう言った彼女の気持ちが、わかった気がした。
EPISODE15です。
EPISODE14の後書きのときの予告通りと言えるかはわかりませんが(長さの感じ方は人それぞれですし)いつもより長めでした。
「/」が入ってたから二つ分の話を一つにしたのか?
と、考えた人もいるかと思いますが、これ、一つ分の話です。「二つを一つにした」とかそういうことは一切してません。マジで。
場面展開が変わる部分を一つのタイトルと考えて書いたのでこんな感じになったというのが経緯です。
EXTRAEPISODEの最初のシーン。
あれはここのシーンのことだったのか、と気づいた方や、予想してた方、いろんな方がいると思いますが、いかがでしたでしたか?
楽しんでいただけたなら、幸いです。
頭を撫でてあげた、隼斗の優しさは、書いてて結構グッと来ましたね。
さて、そんな出来事があってからの一夜明けた二人は、どうなっているか、それは次回のお楽しみにしていただけると、幸いです。
では、EPISODE16でお会いしましょう。




