EPISODE,11:99通りの内の1通り
「そんなことがあったんだ・・・」
静かに話を聞いていた彩音さんは、その信じ難いようで信じたくない事実にショックを受けていた。
そりゃそうだ、身近な奴の過去が暗く、ときにおぞましく、そして悲しいものだとは、想像もできなかっただろう。
なんにせよ、このことを知っているのは
彩音さん、ただ一人だからな。
もちろん、涼太のやつもこのことを知らない。
「このことを話すのは、彩音さんが初めてだよ」
「じゃあ・・・あのことってウソなの?『家族と仲悪くない』って言ってたのはウソなの?」
「そうなるね・・・ウソついてごめん」
「でも、なんで誰にも言わなかったの?」
「なんでって・・・言う必要がないからだよ。俺にも、彩音さんにも」
「え?」
「だって、そんないちいち自分の暗い過去とかばっか話して『精神的に病んでる奴アピール』する必要がなかったし、そもそも俺は、そういう話をして周りから心配されたくなかった。俺には、そういうのはいらなかった。ただそれだけだよ。」
「でも、助けとか・・・」
「それもいらなかったんだよ。それに・・・もう慣れてるし」
「そんなあっさり・・・大丈夫なわけないよ・・・・・・」
彩音さんの泣きそうな顔を見たとき、俺は罪悪感に襲われてた。
ああ・・・何なんだよこれ。
俺って、女子を泣かせるような奴だったなのか・・・無意識にやってたとしたら・・・・・・最低だ俺。
「・・・ごめん・・・」
「え?・・・なんで?・・・・・・なんで私に謝る必要があるの?」
「わからない、ただ・・・」
「ただ?」
「今、すげぇ混乱してる。・・・自分が今、何をするべきなのか、助けを求めたいのか・・・とにかく今すげぇ混乱してんだよ・・・なんなんだよ、これ!?」
「隼斗さん!?大丈夫!?」
混乱している理由が分からなかった。
自分の暗い過去、今も続くその現状、
それを聞いた彩音さんの泣きそうな顔。
これが混乱している原因たったと気づいた。
そしてそれらは、混乱から自分の中で「大きな責任」と化していた。
しかし、それだけでは終わらなかった。
責任に加え、ある不安がよぎった。
「あの家族から独立なんてできるのだろうか?」ということ。
高校卒業と同時に、一人暮らしするという計画は、未だにその形を成していない。
もう、高二だっていうのに、まだ住居どころか、資金の目処すら立っていないという現実。
それらが、自分の頭の中で「絶望的」、「望み薄」、「実現不可能」などといった言葉に変化し。
それがグルグル回って、まるで誰かに煽られているようだった。
もう・・・どうしたらいいんだよ・・・この先・・・。
「隼斗・・・さん?」
「ごめん・・・大丈夫だよ・・・」
「大丈夫じゃないよ、明らかに。自分を責め過ぎだよ」
「うん・・・・・・あの、彩音さん」
「何?」
「その・・・急にこんなこと言われても困るとは思うけど」
「うん」
「その・・・助けてくれ。今・・・俺めちゃくちゃ混乱しているというか、その・・・自分を責め過ぎてて、どうしたらいいんだ、これ」
「隼斗さん・・・」
誰かに助けを求めることが、こんなにも難しく、どう言えばいいのかも分からなかった。
でも彩音さんは、真っ直ぐ俺を見て口を開いた。
「『責任』って、どうやったら取れそう?」
「わからない。自分でも、よくわからないんだ。」
「じゃあ、『私なりの方法』でもいいかな?」
「わかった・・・」
そう言って、彼女は俺に少し歩み寄り、
そして
「今夜、私の家に来てほしい・・・
えっと・・・その、あの・・・泊まってって、今夜」
正直、何が言いたいかさっぱり分からなかったが、すぐに彼女の思惑を読み取った。
「俺と、俺の家族を一日でも遠ざけるつもり?」
「・・・うん」
顔を赤くしながら、彩音さんは
「今日まで、色々あなたに助けてもらったり、仲良くしてくれた。そのお礼。
でも、これはあなたに同情してじゃないよ。今度は、私があなたを助ける番だと思って手を差し伸べただけ。
そういう・・・ことだからね」
そう俺に言ってくれた。
「同情してじゃない」。
この言葉が、嬉しくて、俺は涙を流した。
それを見た彩音さんが、俺を優しく抱きしめてくれたことは、この先、一生忘れられないだろう。
「ありがとう・・・彩音さん・・・俺に、・・・こんな俺に寄り添ってくれて・・・ありがとう」
抱きしめながら、俺は伝えた。
夕日が差し込む誰もいない廊下で、
こんなことがあったこと、そして
「私・・・誰かを抱きしめたこと・・・誰かを抱きしめたいって思ったこと・・・なかったけど・・・こんなに温かいんだ・・・人って」
赤面しながらも、彼女が嬉しさのあまり、泣いていたことは、俺以外、誰も知らない。
EPISODE11です。
彩音さんの泣きそうな顔、嬉し泣き、こういう「人」の喜怒哀楽ほど傷ついてほしくないものだと、書きながら思いました。
さて、「俺の秘密が転校生女子にバレたら同居することになりました」略して、「俺バレ」も連載を始めて、もう一ヶ月が経ちました。
これからも、読んだり、ブックマークしてくれる方々に感謝しながら書き続けたいと思います。
では、EPISODE12で、お会いしましょう。




