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彼女ーミサキーがいた日々  作者: itako8
第二章一節 カズの告白 ~期末テスト~
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第41話 イップス対策

1996年7月20日(土)


期末テストも終わって

夏休みが始まった。

そして午前中は

部活である。


本格的に動く前の全体のストレッチと補強が終わる。


これからは器具の準備だ。


みんな各々の準備に取り掛かっている。


そんな中、

「おい。遠藤。お前から話せよ」

俺は遠藤をけしかけた。

今が良いタイミングだからだ。


「う……。うん。でも僕からでいいのかな?」

こいつ。高宮に話してないのか?


行け! とばかりに遠藤に軽い蹴りをかませた。


「ちょっと。暴力反対!」

遠藤がナヨナヨしてる。

お前、通信空手三段なんだろ。


「いいから行けっての!」

高宮のそばに飛田先輩がいる。

話しかけやすい今がチャンスなのだ。

さらに蹴りを加えるぞというしぐさを見せた。

もう付き合ってるんだから恥ずかしがることもねーだろと思う。


発破をかけたおかげか

ようやく遠藤が飛田先輩と高宮の方に歩いて行った。

「あ。あの。ちょっと準備したものがあって、

良かったら高跳びの練習に使ってもらったらなーなんて」


高宮がハテナ顔をしている。

飛田先輩はしたり顔をしている。

あの人、知ってるからな。

「だったらマットとかといっしょに持ってきてくれる?」

飛田先輩がこちらにも目配せしながら話した。


それじゃ。持ってきますかね。

台車に乗せて"とあるもの"を遠藤は運んできた。


俺はいつも通りマットを運ぶ。

今日は遠藤に"花を持たせて"やりましょう。


「あの。これって?」

高宮が遠藤が運んできた"とあるもの"を指さす。


「そう。跳び箱でつかう"ロイター板"だよ」

遠藤が説明する。

そう。遠藤が持ってきたのはロイター板。

しっかり踏み込んで跳べば、ジャンプ力が飛躍的に上がる。


「中学の時とか使わなかった?」

飛田先輩が高宮に質問していた。

高宮が首を横に振る。

高宮のとこでは使わなかったようだ。


「踏み込みをしっかりする為とかに使うんだけどな」

少しだけ俺も説明する。

ロイター板はしっかり踏み込まないと跳べない。

本来、高跳びでこれを使うのはそういう理由。

だけど今回は違う。


「後は上手く跳べないときに目先を変える効果だな」

その言葉に高宮が少しだけ反応していた。


「そうそう。何か上手く跳べないなって時は無理せず、別の練習をするか

こういう目先を変えるものを使った方がいいんじゃって……」

遠藤も説明に加わった。

これは素人考えと言えば素人考えではある。


野球の投手なんかは

イップスに掛かった対処方法として

投げ方を変えるとかがあるそうだ。

上手投げを下手投げにかえるとかだ。


しかし完全にフォーム変えるのはリスクが大きい。

フォームが合わないこともあるからだ。

でもイップスの症状がでたまま練習すると

イップスに慣れてしまう恐れもある。


であれば……

「イップスになりそうだなとか

イップスの症状が出始めたら

練習方法に変化をつける」

これがイップスの対応に有効ではないかと考えた。


そこで出てきた

対応方法の一つがこれ。

"ロイター板"


小手先の案と言えばそうだけど

俺達が背伸びしてる出来る事はこれぐらいとも思う。


飛田先輩がロイター板を使った背面飛びを教えている

踏み外すと結構大変なんだよな。あれ。

飛田先輩のジャンプを横で見ながら

借りる際の手間をしみじみと思い返していた。


ただし想定していたよりは

意外とすんなりと"ロイター板"を使う話が通った。


順番としては

まず一番話をしやすい飛田先輩に話をして味方に付けた。

ここは楽勝だった。


次に陸上部顧問の久我山先生に話を付けた。

飛田先輩と一緒にいったのが功を奏したのか

少しめんどくさそうな顔をしていたが何とか了承を取り付けた。


その上で体育準備室を管理している育田先生に

"ロイター板"を貸してもらうようお願いをした。

これが一番大きな関門になるかと思っていたのだが……。


「トモサカ君から聞いてるわよ。使ってもらっていいわよ」

とのご回答で

正直、拍子抜けした。


もつべきものはコミュ力の高い友人、トモサカである。



しかし遠藤のヤロウ、

テスト期間中に手伝わせやがったからな。

終わってからでもいいだろうに。

恨み節の一つでも言っておきたいぐらいだった。


でも……

ロイター板を使ってのハサミ飛びに失敗し、

マットに沈み込んでいる遠藤と

そしてその遠藤と楽しそうに話している高宮を見ていたら

まぁいいか。と思えてきた。


イップスがどうのこうのというより

二人が上手くいけばいいんじゃねーのと素直に思えていた。



ここで間に入るのも野暮ってもんだろう。



俺は外周走って、

テニス部のあの子にボールを返そう。

そう決めて、俺は外周に足を向けた。

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