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彼女ーミサキーがいた日々  作者: itako8
第二章五節 カズの告白 ~カズの告白~
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第12話 腹黒イケメンとの語らい

1996年9月16日(月)


遠藤が立ち去り、俺は一人図書室に残された。


……。疲労感が半端ない。


何、これ?


告白だけでも相当疲れてるのに……。


そして……トモサカが涼やかな笑みと共に図書室に戻ってきた。


「遠藤君は許してくれたかい?」


「あぁ……」

口からようやく言葉を絞り出した。


「なら良かった。

それとすまない……。騙すような真似をして」

トモサカが謝罪を述べた。


「……。元はと言えば俺が悪いことだしな」

俺がテープレコーダーに録音させてなければ……、こんなことは無かったはずだ。


「手を出さないでおこうかととも考えていたけど……。

僕の耳にも遠藤君の告白の一件が入っていたんだよ」


「! それって。あの3人の誰かがバラしたって……」


「おそらくね。ただ遠藤君をからかう内容ではなかったよ。

僕が聞いた限りでは、素敵な告白だったという内容だった。

でも、遠藤君にはどう伝わるかは分からないし

彼に伝わるのも時間の問題だ……と僕が勝手に判断した」


「カズも経験があるから分かると思うけど、

人と人との繋がりなんて、ちょっとしたことで崩れてしまう」

多分、中2の事件の後に起きた事を言ってるんだと思う。


「なんつーか。前もって教えてくれればさー」

不満をこぼす。


「それだと。誰かに聞かれる前提の告白になるだろう?

君が遠藤君から聞いた"他人に聞かれない前提の告白"とは違ったものになる」


……。あぁ。まぁそうなるのか。

そうなるから俺に黙ってたのか。


「まったく。メンドクセーことを成し遂げちまう奴だよな。

トモサカって」

呆れてもいるが、誉めているつもりでもある。


「カズがめんどくさくしちゃったんだよ」

トモサカが薄く笑う。


「おーい。俺の演技どうだった?」

そう言って今度は丹波が図書室に入ってきた。


演技? どゆこと?


「良かったよ。良い"からかいぶり"だった」

トモサカが丹波を誉める。


「どうからかっていいか悩んでたけど……。

意外と上手くいったか?」

丹波が答える。


「えっ。なっ。どういうことだよ!?」

頭が追い付かない。


「丹波がカズの告白をからかっただろ。

あれは"僕の仕込み"だよ」

トモサカが笑みを崩さずに、しれっと答える。


「はぁー!!!!???」

俺の驚きの声に丹波がニンマリと笑みを浮かべた。


「何でワザワザとそんなことを?」

俺は何が何だかよく分からない。

トモサカと丹波は俺の唖然とした表情を見たはずだ。


そしてトモサカがおもむろに口を開いた。

「カズは……

テープレコーダーに録音した遠藤君の告白を

女子3人が聞いてるの見たんだろ?」


「あぁ……」


「それを見て、カズはどう思ったんだ?」


あの図書館での遠藤の告白を思い出す。

録音したり、みんなで聞いたりするのはやりすぎだろうと俺は思っていた。


「えっ。あー。何かこんなの聞いたらまずいんじゃないかとか思ったな」


「他人の告白を聞くのに嫌悪感があったてこと?」

トモサカが問う。


「そうだな……。そんな感じだ」

俺は正直に答える。


「それって大事なことなんだよ」


「カズは客観的な目線で女子3人を見ていたことになるからね。

だからこそ、他人に見せたくないものを盗み見ようとする

その醜悪なふるまいに気付けたとも言える」


まぁ。そうかな。と思う。


「人間てね……。

他の誰かが目の前でやって見せないと、

"自分のやったことの醜さに気づけない"ことって多いんだよ」


えーと。つまり。


「女子3人に客観的に己の行った事の醜悪さに気づいてもらう為に、

そうしたんだよ」

何だか長距離のフォーム確認と似たように感じる。

自分は出来てると思っても出来てないことは意外と多い。

人間て、自分の客観視が苦手なんだ。


「君の告白を丹波がからかう事でそれが出来る。

だから申し訳ないが、利用させてもらった」


しかしこいつ。そんなことまで考えていたのか?


今回のこの一件……。

トモサカが考えていたことは三つあるってことだ。


第一の目的は

"俺に告白が出来るようセッティングをする"こと。


そして第二の目的は

"俺と遠藤との仲にヒビが入らないよう「おあいこ」にすること。


しかしさらに

第三の目的があったのだ。

それは

"アカリ達に人のプライバシーを盗み見ることの醜さ"を伝えること。


分かった瞬間に背筋がゾクッとした。


俺はトモサカが頭のいい奴だとわかっているつもりだった。

だけど、ここまで策を張り巡らす奴だったとは!!!


おれはトモサカという人間を未だに過小評価していたことに気づいた。


「彼女達だけが悪いとは一概には言えない……。

ただ多くの人が恋愛ドラマとか小説とか漫画に毒され過ぎなんだよ。

それで告白というものが見て良いものだと勘違いしてしまってる。

でも。そうじゃない。それは他人が盗み見ていいものじゃないんだ。

僕はそこに気づいて欲しかった」


俺の告白をからかう丹波の様子を見て

アカリと図書委員さんと清水さんは顔を歪めていた。


あれは丹波の言動の醜さもあるが……。

自分たちが行った事の醜悪さに気づいたからなんだと思う。


「女子3人に釘をさすってことか…」


「端的に言えば、そういうことだ」

トモサカは短く答えた。


この場から離れていこうとする丹波をトモサカが呼び止めた。

「丹波も分かったか? 他人のプライベートをあれこれいう事の醜さに」


「……。高宮には一応、謝ってる。ただ他の奴等は未だ……」

ん。丹波はなんかしたのか高宮に?


「未だの連中は僕に連絡して欲しい。

汚れ役をやってもらった礼だ。

出来る限りの手は打とう」


「……。わかった」

そう短く丹波は答えて、離れた。


「丹波は口が軽すぎる。だがその口の軽さに救われることもある。

皮肉なことだが……」

ん。そんなことあったけか?


「カズ。誤解してもらいたくないんだが…」

トモサカは丹波に向けていた顔をこちらに戻して続けた。


「うん?」

なんだろう?


「偉そうに講釈を垂れたが、僕にも彼女たちと同じ醜悪さがある。

人が隠したいと思っている内面を知りたいという醜悪な気持ちが僕にも有るんだよ。

彼女達だけを攻める事は出来ない……」

そう言って、トモサカはいつもの優し気な笑顔を顔に張り付けた。


「……。人間みんな似たようなもんだろ。俺にだって同じ醜さはあるさ。

それに欠点がまるで無かったり、間違いを犯したりしない人間なんていないんだからよ。

……。とは言っても、言って分からねぇ奴らとは付き合いきれ無いぇがな」


その言葉にトモサカが短く「そうだね」と答えた。


「今頃、告白を盗み聞きした女子も反省してんじゃねーか?

だから。ま。そんなに気にすんな」


アカリ、図書委員さん、そして清水さんもあれだけやれば分かるんと思う。

アカリは独善的で猪突猛進なところが多いが、悪い奴じゃない。

ちゃんと考えれば、他人の気持ちも推し量れる奴だ……と思う。

でなきゃ俺は中学時代にアカリに引っ叩かれちゃいない。

俺はアカリに叩かれた頬を撫でた。

寧ろ俺が他人の気持ちを分かれなかった事もあったことを思い出した。


「そうか…。君にそう言ってもらうと救われるよ。

今回は上手くいった方かな?

それと。清水さんとの件はおめでとう。

君たちのお付き合いが上手くいくことを陰ながら願っているよ」

そう言ってトモサカは踵を返し、去っていった。


……。


今回は……か。


俺は……いや。


俺達は中学のあの事件のことを思い出さずにはいられなかった。



次の休み時間。

清水さんが俺のいる教室に来た!


も、もしかして俺に会いに来てくれたのか?

と思ったら図書委員さんも来て、遠藤とアカリと一緒に廊下に出ていってしまった。

……。多分、遠藤に女子3人で謝罪する為に来たんだと思う。

遠藤のことだから許すとは思うけど……。

あぁぁぁ。勘違い……。


さて。その日の部活。

遠藤から、「ここで転がったら? 2階じゃないから大丈夫だよ」

とからかわれたので、取り敢えずブッ飛ばした。

遠藤め。調子に乗り過ぎだ。ったく……。

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