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彼女ーミサキーがいた日々  作者: itako8
第二章五節 カズの告白 ~カズの告白~
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第11話 おあいこ

1996年9月16日(月)


「カズ。お前さ。布団抱えて転がるって何だよ?

恥ずかしい奴だなーー」

丹波がニタニタと笑ってやがる。

ムカつくな……。


「……何だよ。悪いかよ」

不機嫌を顔に張り付けて丹波を睨む。


「浮かれ過ぎだろ?

それに、飛び降りそうになるって

バカじゃねーの?」

怯むことなく、なおも丹波が続けた。

バカにバカ扱いされると腹が立つ。


そして、女性陣もその丹波の態度に怪訝な表情を見せた。


「……アンタ。言い過ぎでしょ」

アカリが耐えかねたのか、口を挟んだ。


「いやでも……」

丹波が食い下がっていた。


その対応にトモサカが凍える声を丹波に向けた。

「人の告白を嘲笑ったり、からかったりするということは

自分が告白した内容も色んな人に話されても構わない。

そして嘲笑われたり、からかわれても構わない。

そういう考えで良いな?

丹波?」


「ち。ちがっ。からかったわけじゃ……」

その声に、はしゃいでいた丹波が我に返る。


「僕は君が女子に告白した内容も知ってるんだが、

それも人前に晒そうか?」

トモサカが凍える声で続けた。


「その。俺は。別にバカにしてたわけじゃ……」

丹波が言い訳を続ける。


「ご。ごめん」

トモサカからの冷たい視線に耐えかねたのか、丹波は謝罪の言葉を述べた。


「……。丹波。それは僕に向けるべき言葉ではない」

トモサカが続ける。


トモサカが何を望んでいるか丹波も分かったようだ。

「あの。笑ったりして悪かった……。カズ」


それを見てトモサカは少しため息をついた。

この場をトモサカが完全に制していた。


アカリや図書委員さんもほっと胸をなでおろしたような様子だった。

しかし……。


「それとアカリ。君たちも遠藤君の告白を盗み聞きしたそうじゃないか?

女子3人で盛り上がったと聞いているが……」

トモサカがその冷たい声と視線を次は女子3人に送った。

遠藤の表情が険しくなった。


「えっ。でも……私たちはからかったり、馬鹿にしたりしてなんか……」

アカリが、か細い抗議の声をあげた。


「からかったり、馬鹿にしなかったりしたら

盗み聞きしていいものなのかい?」

トモサカはその口調を変えない。

その声はあの夏祭りでのアカリを心配する声と

180度違っていた。


「……」

女子三人は答える事が出来ず、ばつの悪い表情をしていた。


「それと木ノ本さん。例のモノ頂けますか?」

トモサカが図書委員さんに右手を伸ばす。

何かを受け取ろうとしていた。


「……」

その対応に図書委員さんが無言で答えて

テープをトモサカに手渡した。

あれは……多分、遠藤の告白の……。


「ダビングしていませんよね?」

トモサカが念押しする。


「……してません」

図書委員さんが答えた。


「では。……遠藤くん」

そう言ってトモサカは遠藤にテープを放り投げて渡した。

空中で弧を描いて遠藤の手にテープが渡った。


「カズ。今回の件は僕を恨んでくれていい。

僕も君を裏切っている。

だが遠藤君の言葉も聞いて欲しい。

僕からはこれぐらいだ」


「それと、今回の鬼塚の件もそうだが……。

遠藤君の告白内容を口外するようであれば

僕なりの"制裁"を与える。

それは丹波にだけではなく、

ここにいる全ての人間に対して言っている」

トモサカのその眼光が図書室にいる全ての人間を射貫いていた。


この言葉に周りにいる人間が震えた。


ヤベェ……。


"制裁"という言葉がトモサカからでた。


トモサカは……かなりお怒りだ。


それに友人、知人の多いトモサカの事だ。


ここにいる全員の弱みを丹波と同じように握っているのかも……。


そう思わせるだけの力がトモサカにあった。


図書室にいる全員をトモサカは見渡して話を続けた。


「さて……。

ここからは鬼塚と遠藤君の二人で話した方がいい。

僕達は退場しよう」

そう言ってトモサカは丹波、アカリ、図書委員さん、清水さんを図書館の外に追い出した。


そして俺と遠藤が図書室に残された。




俺達二人になるのを見計らって、遠藤が重い口を開いた。


「これで"おあいこ"ってことで、いいか? 鬼塚」

遠藤からの提案だった。


「いやあのさ。遠藤。俺いう事あるんだわ」


「何だ? 鬼塚?」


「あの。悪い。というかごめんなさい。勝手にお前の告白録音させちまって……」

そう言って俺は頭を下げた。

許してくれるかどうかは分からない。

でも謝罪は必要だと思った。

すこしだけ遠藤の表情が緩んでいた。


「何で……録音なんて許可しちゃったんだ?」

遠藤が当然の疑問を口にした。

そりゃ。そうだよな。


「悪い。何か。早く片付けてしまいたいって思ってて。よく考えて無かった……」


「そうか……だったら嘲笑おうとか、

さっきの丹波君みたいにからかおうとか、そういう気持ちは?」


「いや。それは無い」

そういうのは無かった。

ただ面倒だっただけだ。


「それに女子達3人もそういう気持ちじゃなくて、なんていうか

恋愛に興味があって聞いてしまったて感じだと思う

誰もお前の告白をからかったりなんてしてなかった」


そんな中、遠藤が短く息を吐き、そして口を開いた。


「それはトモサカ君からも聞いてはいる。

それと……

彼が言うにはね。

彼はね"鬼塚は決して悪い奴じゃない"。

寧ろ"友達想いの奴だ"って言ってたよ。

ただし"ズボラなところがある"とも言ってたけど」

うん。そのズボラな部分が問題だったワケだが……。


「だから今回の件も、

僕と君との間の関係にひびが入らないようにするには

"おあいこ"にした方が良いというのが彼の計画なんだよ」

遠藤が続けた。


「"おあいこ"って?」


「僕が君の告白を聞くってことだよ。

それで"おあいこ"にするから

"鬼塚にとっての良い友達でいて欲しい"が彼の言い分なんだ

それで……僕は友坂君の計画に乗ったんだ」


「まぁ。僕も僕の告白が、他の人に聞かれていたとか

録音されていたってことには腹が立ったけど。

でも君が協力してくれなかったら

高宮さんに告白できてなかったと思う。

腹が立ったの事実だけど、感謝もしてるんだ

今回は許す。

でも、二度は無いよ。鬼塚」


そう言って遠藤も図書室から離れていった。

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