第10話 遠藤くんマジ切れ5秒過ぎ
1996年9月16日(月)
「いや。いいものを聞かさせてもらったよ。心に染みる告白だったよ。カズ」
その言葉と共にしれっとした顔で、図書室のカウンターからトモサカが現れた。
拍手をしながらトモサカが不敵に俺達に近づく。
一瞬。何が起きたか俺には分からなかった。
そしてトモサカに次いで、丹波とアカリと図書委員さんが笑いを堪えた顔で現れた。
こいつら何?
隠れてたのか!?
っていうかグルなのか!!??
「丹波!! それにアカリも!? 図書委員さんまで…… な。何で図書室に……」
「カズ。丹波が鍵を閉めたのは図書室だけだ」
トモサカが静かな声で答える。
「図書準備室は鍵を閉めてない。そして図書室と図書準備室は繋がってるんだよ」
俺は図書室の構造の事は知らない。
だけど音楽室と音楽準備室はしきりとなる壁はあったが
その壁にドアがあり、中で繋がっているのは知ってた。
それと同じことか!?
「図書準備室から彼等を招いたんだよ」
トモサカが"しれっ"と説明する。
事態がようやく飲み込めてきた。
と同時に怒りが湧いて出てきた。
「トーモーサーカー! てめぇ。裏切りやがったな!!!」
マジギレ5秒前。
「うん。裏切らせてもらったよ」
この"腹黒イケメン"。顔色一つ変えずに"さらっ"と答えやがった。
「でも。最初に裏切ったのはカズの方じゃないか?」
トモサカが訳の分からないことをのたまう。
「あん? 俺はお前を裏切ったりしてねぇ!」
「君が裏切ったのは僕じゃないよ? 覚えてないかな??」
要領を得ない……。
トモサカは憎らしいまでにポーカーフェイスのままだ。
よし。一発ぶん殴ってやろう!
腕まくりをする。
「俺は誰も裏切っちゃいねー!」
間違いなく言える。
その言葉にトモサカは微笑を浮かべた。
「自信あるんだね……」
試すような口ぶりでトモサカがのたまう。
「当たり前だ!!!」
構うものか。
やっちまおうとしたその時……。
「……だそうだよ。遠藤君。出てきて」
トモサカが図書室のカウンターの方に声を掛けた。
はあっ? 遠藤??
そして遠藤がゆっくりと
図書室のカウンターから姿をあらわした。
青白い顔でこちらを上目づかいに睨み付けている。
ヤベー。マジでキレる5秒前の表情だ。
そして遠藤が重い口を開いた。
「鬼塚。僕はね。君に感謝してたんだよ。
君がいなければ高宮さんと付き合えなかったかもしれないからね」
おごそかにそしてゆっくりと遠藤が喋り出す。
「あの告白の前も僕は、僕に報告すべき重要なことがあれば、
報告して欲しいと言わなかったかな?」
……言っておられました。
俺は柔道男が高宮さんと昼休みに話している事を報告していなかった。
それを俺は遠藤からひどく怒られた。
『なんでそんな僕が確実に知らない重要な情報を今まで黙っていたんだ!』
確かこんなことを仰っておりました……。
お。おそらくトモサカは"あの事"を遠藤に話してしまっている。
アカリと図書委員さんといっしょに隠れていたことからもそれは伺える。
「遠藤。落ち着け。はっ。話せばわかる。話せば……」
こちらが遠藤に話しかけている途中で遠藤がブチ切れた。
「僕の告白をテープレコーダーに録音していいなんて、
許可した覚えはないぞ!!! 鬼塚!!!!!」
怒声と共に、遠藤の俺への視線が一気に強まる。
あぁぁぁ。やっぱり……。それぇ!?
「みんなで弄んで楽しんだそうじゃ無いか。僕の告白を!!!」
キレてる! キレてる!
遠藤君キレてます!! キレちゃってます!!!
既に切れてる5秒過ぎ!!!!
「いや。あれは。図書委員さんがセットしてて、アカリが楽しんじゃって……」
しどろもどろで受け答え、図書委員さんとアカリがいる方向を見る。
あっ。やつら。そっぽ向きやがった。
清水さんは顔をフルフルと震わせ、頭を下げた。
うん。可愛い。ほっこりしてしまう。
……いや! ほっこりしてる場合じゃねぇ!!!
「君が録音許可を出したと聞いているぞ!!!
裏切ったのはお前だ!!! 鬼塚ッ!!!!!」
うわぁぁぁぁぁぁ。
やっぱこれか。
これが……トモサカが言ってた俺の裏切り……。