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彼女ーミサキーがいた日々  作者: itako8
第二章五節 カズの告白 ~カズの告白~
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第9話 ”好き”って何ですか?

1996年9月16日(月)


「"好き"って……何なのかな?」

清水さんが尋ねてきた。


そのメガネの奥の大きな瞳は真っすぐにこちらに向けられていた。


えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!


頭がパニックです!

どしたらいいの?


俺は清水さんからの返事は3パターンしかないと思っていた。


つまり……

"①はい(承諾)"か

"②ごめんなさい(拒絶) 友達でいましょう……"か

"③ちょっと待って下さい(保留)"

しかないと思っていた。


まさか"質問"で返してくるとは予想だにしてなかった。

だから答えも準備してない……。


えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!


どう答えればいいのこれ?

どうしよう。どうしよう。


どないしよう?


清水さんに"好き"って感情を、

どう説明すれば……。


うーん。

うーん。うーん。

えーい。もう。破れかぶれだ!

思いつくままに……喋った。


「いや。えーと。何て言えば……

あの。だから。もう。

頭の中がその人で埋め尽くされちゃって……。

それで、その人が掛けてくれた優しい言葉とか笑顔とか

そういうのが、ずっと響いてしまって

それでなんていえば……。

あー。だから……。

胸が苦しくなって、

一人でいる時なんて、

俺なんて、清水さんのこと考えて、

畳の上でゴロゴロ転がっちゃって

んで恥ずかしいやら、嬉しいやらで

空に向かって

2階から飛び出しそうになって……

それで。

それで……。

何か……。

何でもいいから

その人の為に何かしたくなって……」

取り留めも無くまくし立てた。

少し冷静になり、恥ずかしくてたまらないことを口走っていた事に気づく。


あぁぁぁーーー!!!

もうちょっと言い方ってもんがーーーーー!!!!


「……どうしよう」

清水さんが何か考え込んでいるようだ。

どうかしたの?


「私、ゴロゴロ転がってない……」

はいっ?


「好きな人を想って、

ゴロゴロ転がっちゃったら恋なんじゃないですか?

どうしよう!? 私、転がってない……」

清水さんが心底、困った表情を見せた。



チガーーーーーーーーーーーーーーーーーウ!!



「いや。清水さん。あのね……」

俺は優しく諭すように清水さんに語りかけようとするが……。


「それと。2階から飛び降りちゃダメです!

危ないです!!」

清水さんからたしなめられてしまった。


いや。うん。まぁそのとおり危ないんだけどね……。

でも、実際に飛び降りしたわけじゃ……。

あぁ。駄目だ。清水さんが委員長さんモードに入ってしまった。


その上……。

ズレてる。ズレてーる!

ハゲしく論点がズレてーる!!


「いや人を好きになるのに

転がる必要は無いから。清水さん」

畳の上でゴロゴロ転がってた自分がこんなこと言うのはおかしい話だが……。


「でもでも。

私も頭の中が鬼塚君でいっぱいになったことがある。

鬼塚君の言葉が耳に残ってる事もある。

だから……」


うん。それはですね……。

それは?

少し考えて「清水さんも俺のこと好きなんじゃね?」という発想に至る。


えぇーーーーーーーーーーーーーーー!!


「だから後は転がるだけだから

あっ。でも飛び降りるのは……

下にマット置けば大丈夫かな?」


あの。清水さん、混乱してません!?

いや俺もハゲしく混乱してるんだが……。


「いや。転がらなくていいし……

2階から飛ばなくてもいいから」


アカン。ズレてるっていうか滑ってるというか……。

清水さんの鼻息が荒い。

心配してくれているのは分かるけど……。

清水さんが慌ててるからなのか……、

俺は逆に少し冷静さを取り戻してきていた。


「あの。俺さ……。

何かさっき偉そうに説明しちゃったけど、

人を"好き"になるって何かって

未だ正直、あんまりよく分かってない……と思うんだ。

ただ……。

俺は人を"好き"になることが

多分……"嫌い"だった」

自分を振り返ってそうだった。


「"好き"が"嫌い"?」

突然のことに清水さんがキョトンとした表情をみせた。


「なんか。人を好きになるってさ

自分勝手じゃん。

勝手に好きになった挙句にさ。

それで。付き合えって。

相手に取っちゃ迷惑だろ。

それ……」


モテる奴らの苦労はトモサカやアカリから聞いている。

清水さんも多分……大変なんだと思う。

話を聞いていた清水さんが苦笑していた。


「自分の感情を押し付けるのなんて

"好き"でも何でもないと思うんだよ。

自分の気持ちを……好きな人に無理矢理押し付けるなんてさ。

カッコ悪いじゃん。

だから……

俺はむしろ好きな人が喜ぶこととか笑顔とかさ。

そういうのが見たい……。

そう思ってるんだ」


カッコ悪いかもしれないけど……

自分の中にも"好き"という気持ちを相手に押し付けてしまいたい。

そんな厄介で、ぐちゃぐちゃな感情も確かにあった。

これが"好き"という感情なのかもしれないけど。

でもこんなものを相手にそのままぶつけていいとは思えなかったし……、

なにより、目の前の清水さんの笑顔を見たいという気持ちも

……確かにあったんだ。

俺達の成績が上がったことを素直に喜んでくれる彼女の笑顔を……。

もっと……って。

だから先生を目指す、彼女の為に勉強会を続けたいと……。



でもそれは言わない。



取引の材料のようにしたくなかったから……。


「でも。だったら何で告白しようって……?」

清水さんも落ち着いてきたみたいだ。

当然の質問をしてきた。

俺は頭を少し掻いた。

まぁ……。矛盾してるからね。


「……遠藤と高宮見ててさ。

なんか……楽しそうでさ。

羨ましかったってあるよ。

あんなふうに俺も好きな人と過ごせたらって思った。

付き合うってこういうことなのかなっ……て思ってさ」


清水さんが静かにそして真剣に聞いてくれたと思う。

会話が無くなってきた。


清水さんの答えが聞きたい。


けど、もし清水さんに振られたら

気まずくなって……

一緒に時を過ごすなんて出来なくなるかもしれない。

だから今、言っておこう。


あの時伝える事が出来なかったあの言葉を……。


「あのさ。話変わっちゃって申し訳ないけど……

今、言っておきたことがあってさ」


「何?」


「夏休みのプールの時のおにぎり。

美味しかった。……有難う」


「鬼塚君……。あの時もちゃんとお礼いってくれてたよ?」

清水さんの顔にクスリと笑みがさした。


「あ。いや。あのおにぎりにさ

俺の好きな具材入ってたから……

おかかとか、鮭とか……

それで……なんか嬉しいなって……。

それは……伝えてなかったから」


そう伝えきれていなかった。

だから今……。

伝えた。

その俺の言葉に

清水さんが笑顔で答えてくれた。


それは……

夏祭りで「新人戦を頑張って」と励ましてくれた時の……

プールで一緒に遊んでる時の……

俺と遠藤の成績が上がったことを素直に喜んでくれた時の……

落ちていたテニスボールを返した時に見せてくれた……


俺の大好きな清水さんの笑顔だった。


「うん。私、ちゃんと調べたんだよ」

清水さんが笑顔のまま答えた。


「調べたって?」

何を?


「鬼塚君の好きなもの」


えっ。

それってつまり……。


「あの清水さんそれって……清水さんも俺のこと……。

その。気になってるっていうか」

"気になる"では無く"好き"って言いたかったけど、

自意識過剰な気がして、言えなかった。


「えっ。あっ……。うん」

少し顔色を赤らめて清水さんが答えた。


うそっ!? マジですか?


「あの。その。じゃ。お付き合いをして頂けるというか」

何でか知らんが、敬語になった……。


「あ。あの……。不束者ですが宜しくお願い致します」

清水さんは居住まいを正し、

敬語に伴って、深々とおじきをされてしまった。

いやいや。嫁に来るんじゃないんだから……。気が早すぎか?


「あの。鬼塚君。それと。眼鏡って外さないと駄目……かな?」


「はいっ?」

何で?


「あの。鬼塚君。外して欲しいとかあるかな?」


「えっ。別につけてても良いんじゃない。

似合ってると思うし。清水さんの好きにしたらいいと思うけど……」

テニスするときは外した方がいいとは思うけど……。


何でそんなこと聞くんだろうか?

そして清水さんがその言葉の後にまたほほ笑んだ。

て言うか……。


うそーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。


いや、その告白しといてなんですけど……。

ホントに付き合えるなんて。

天にも昇るってこんな気持ちなのか……。


だが残念なことに

その幸福は乱入者のせいで長くは続かなかった。


「いや。いいものを聞かさせてもらったよ。心に染みる告白だったよ。カズ」


はいっ????


俺と清水さんと時計以外の物音がしないはずの図書館で、

何故か、トモサカの声が響いた。

BGM 「明日への扉」I WiSH ※ただしトモサカが現れるまで

https://www.youtube.com/watch?v=QIBPUU_tuJE

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