第8話 カズの告白
1996年9月16日(月)
「話って何かな……。鬼塚君」
清水さんがぎこちないながらも
笑顔で話しかけてくれた。
胸がキリキリ。
喉はカラカラ。
口が、唇が、ピクリとも動かなかった。
だ。
だ。だ。
だ。だ。だ。ちくしょー!
俺は何てカッコ悪い…。
自分から話しかけようとしてたのに…。
おれが、"吊り橋効果"とやらにはまってどーする!?
話掛ける事が出来ない。
口が動かないなら……。
思い切って両手を自分の頬に近づけ。
自分の頬を引っ叩いた。
バチン! と派手な音が
二人以外の誰もいない図書室に乾いた音が響いた。
「お。鬼塚君。大丈夫?」
清水さんが心配そうにこちらを見てる。
スゥと息を吸い込み。吐き出す。深呼吸だ。
「……。大丈夫。大丈夫。気合い入れたんだ」
ようやく……。
自分の口が動いた。
よしこのまま、言ってしまえ!
「清水さん。君が好きだ。出来れば俺と付き合って欲しい!」
直球だった。それ以外になかった。
何かあんまりグダグダ言うのは好ましくないと思った。
告白は色々考えたけど、自分は結局これに落ち着いた。これしかなかった。
それを伝えた瞬間、清水さんの眼鏡の奥の大きめの瞳が
さらに大きく見開いていた。
そして俺は清水さんからの回答を静かに待った。
でも、心臓は試合の時以上にバクバクしていた。
「……。私。ここに来る前にこうなるんだろうなって思ってた」
うん。遠藤と高宮と同じシチュエーションだからね。
「あの。鬼塚君…。ちょっと聞いていい?」
清水さんが静かに応え始めた。
「私達が初めて話した時の事覚えてる?」
あれ?
「ごめんなさい。友達としか見れない」とかじゃ無いんすか?
自分が考えていた清水さんの答えの一つである。
「えっと。あれ。何話したっけ」
はじめて……。えー。はじめて会った時……。
って。あれ? 何話したっけ?
清水さんが少しだけ微笑みながら口を開いた。
「鬼塚君は遠藤君の為に昼休みに席を譲ってるって言ってた。
高宮さんは綺麗だと思うけど……
好きではないって言ってた。
それと鬼塚君は好きって気持ちが分からないって言ってた……」
あー。そういや確か、そんなことを言ってた気がする。
「鬼塚君。私の事好きだって、さっき言ったよね」
「う。うん」
「鬼塚君。"好き"って……何なのかな?」
清水さんは今にも消えてしまいそうな笑みを浮かべていた。