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プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜  作者: 四季
3章 還り、そしてまた
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episode.95 歩む道の先には未来があるだろう

 溢れ出す光は白一色ではない。複数の色が混じり合った輝きが強く放たれ、夜と草の匂いが漂っていた静かな暗闇に新たなる色を塗る。

 皆は驚きと戸惑いが入り交じった感情を隠しもしない。起こるのは一種のざわめきのようなもの。もっとも、当人である私さえも何が起きているか分からないのだから皆がそうなるのも当然といえば当然なのかもしれないが。


 刹那、虹のようなその光に飲まれ、気を失った。



 ◆



 真正面に金髪の女性が立っている。

 周囲には特に何もない。無のような空間。それはまるで白いキャンバスのよう、まだ何も塗られても刻まれてもいない。

 ただ、彼女の表情は真剣さのあるものだった。


「貴女の戦いはまだ終わらないでしょう。けれどもそれも貴女が選んだ道、あれこれ言いはしません。ただ、どうか覚えていて。たとえこの先何があっても貴女は決して孤独ではない。そのコンパクトは貴女を――」



 そして気がついた。


 見えるものすべてが白い、どうやらクイーンズキャッスルへ戻ってきたようだ。


 人の世へ行った時と似ている。仰向きになって床に倒れていた。それゆえ一番に視界に入ったのは天井部分だったのだから面白いものだ。ちなみに、コンパクトはきちんと胸の辺りに置かれていた。


 それから少しして、恐る恐る上半身を起こしてみる。

 周囲を見回しても誰もいない。けれども、見た感じキャッスル内部の状態に大きな変化はなさそうだ。私が知っているクイーンズキャッスルのままである。


 そうだ! と思って、あの球体の方へ視線を向ける。

 それは何事もなかったかのような様子で佇んでいた。

 その頃になると身体も自然と自由に動かせるようになってきて、慎重に立ち上がって、球がある方へと進んでみる。


「何もなってない……」


 近づいて見てみても傷一つさえ見当たらない。


 攻撃されても傷はつかなかったということなのか、あるいは、攻撃した者が消えたから傷もまた消滅したのか――。


 いずれにせよ、真実に触れることはできない。

 ならば考えても意味がない。


 ――と、その時、通信が入った。


『どうも。クイーン、生きていたか』


 盾のプリンスからの通信だった。


「はい、生きています。それで、そちらは? 盾のキャッスルですか?」

『あぁ』

「ご無事で?」

『もちろん』


 少し何か言いたそうな顔をする盾のプリンス。

 何だろう、と思い、言いたいことがあるなら言うようにと促すと。


『ミクニという女性がいただろう』

「はい、ミクニさんですね」

『実は彼女も盾のキャッスルへ飛ばされていて』


 聞いて驚いた。

 彼女がそっちへ行っていたなんて、と。


 しかしどうしてだろう? なぜ彼女まで盾のキャッスルに。どちらかというとクイーンズキャッスルにいた時間の方が長そうなのだが。あの瞬間に盾のプリンスとミクニが近くにいたから、という理由でもなさそうだし。過去盾のキャッスルを占領していた時期があったからだろうか?


 脳は勝手に働き続ける。


「そうだったのですね。ミクニさんも無事ですか?」


 一応尋ねておくと彼はこくりと頷いた。


 それ以上の詳しいことは聞かせてもらえなかったが、まぁ、今はそこまで気にすることもないだろう。誰がどこに、なんて、今はそこまで重要なことではない。一緒にこちらの世界へ来られたなら取り敢えずはそれでよし、という感じだ。


「それにしても……こんな形でキャッスルに戻ってくることになるとは驚きですね」

『あぁ』

「皆さんも同じようにキャッスルへ戻ったのでしょうか」

『まだ確認していない』

「そうですか。ではこちらで徐々に確認してみますね」


 彼との通信はそこで一旦終了。

 その後次の作業へ移る。

 作業というのは、皆が私や盾のプリンスと同じようにキャッスルへ来ているのかということを確認する作業のことだ。


 これではまるで出席確認係のようだが……まぁそこは気にしないこととしよう。


 戦闘での活躍が少ないからこそ、できることにはできる限り取り組まなくては。



 それから一通り皆に連絡した。

 それぞれと言葉を交わしたのは少しだけだが。


 で、皆の状況だが、全員キャッスルへ戻っていた。プリンセスプリンスらはそれぞれのキャッスルへ、その他の顔ぶれも戻るべき場所へ戻れていたようだ。それと、元々は関係なかったアオもきちんと時のキャッスルへ行けていたようだったので、その点に関しても安心した。


 人の世での暮らしも長引いたけれど、これで元の生活に戻ることができそうだ。


 あの夢のような場所で金髪女性は『戦いはまだ終わらないでしょう』と言っていた。それに関しては少々引っ掛かる部分はある。まるで戦いが終わらない未来を知っているかのような言い方だったから。


 ――いや、それは運命なのだろう。


 クイーンとして生きてゆくなら戦いとは離れられない。なぜならそれが役割だから。プリンセスやプリンスも同じ。だからきっと、私も、これからも続いてゆく戦いのその中で生きてゆくのだと思う。

 でもそれも私が決めたこと。


 それが私の選んだ道である以上、そこから逃れることはできない。


 とにかく今は無事キャッスルへ戻れたことを喜ぼう。で、この先のことはこれから考えるのだ。もちろん、皆と共に。


 待ち受けるものの全貌は見えずとも、歩む道の先には未来があるだろう。

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