episode.91 光溢れ
「はっはぁ、クイーンが自ら来てくれるとはなぁ」
一本一本が煌めくような金髪の幻のような女性に導かれるままに私は正面玄関にまで向かった。そして今は正面玄関を出てすぐのところにいる。そこには全身から黒いもやを溢れさせる元・剣のプリンスがいて、彼と対峙するプリンセスプリンスらもいた。
元・剣のプリンスは様子がおかしい。声も容姿もこれまでに知っていたものとさほど変わらないのだが、これまで以上に黒々とした恐ろしいような雰囲気を漂わせている。それに加え、剣を握るのとは逆の手からも黒いものが溢れ出している。
至近距離でなくても感じ取れる異様な空気感。
近寄りたくない、本能的にそう思ってしまうような……。
ちなみに、フローラとミクニは、最初はここにいたものの子ども部屋の方へ行くこととなったようで先ほど立ち去った。
数ではこちらが圧倒している。けれども目の前の彼は軽く倒せる敵ではない。皆が揃っているにもかかわらず私がここへ来るまでに倒せていなかったというのがその証拠だろう。一対多であっても苦戦している。
「クイーン、なぜここに。ここは危険だ、早く建物に入ってほしい」
盾のプリンスが接近してくる。
「貴女は行くべき場所へ行かなくてはならない、クイーンとして。……そう言われて」
力なき私がここへ来て意味があるのか?
もっともな疑問だろう。
でもあんな風に導かれてしまっては。
「言われた? 誰に?」
「金髪女性の幻――きっとあれは母だと思います。恐らく、ですけど」
すると彼は少し驚いたような顔をする。
が、すぐに顎を引いて、低い小さめの声で「そうか」と返した。
「フレイヤさん! ここは危ないわ!」
「一応時のプリンスも呼んだけれど……大丈夫かしらー」
剣と森のプリンセスがそれぞれ発した。
「とにかく中へ入ってほしい。クイーン、君がここにいるのは危険だ」
「確かに足手まといにしかならないですよね」
「違う。傷ついてほしくないだけだ」
そんな風に言葉を交わしていると。
「……お主ら、こんなところでいちゃつくな」
正面玄関から時のプリンスが出てきていた。
子ども部屋にいたのだから地下からここまで来たのだろう、移動が速い。
「勘違いです!」
「誤解だ」
反射的に叫ぶ、と、盾のプリンスと被った。
この調子ではまるで本格的にいちゃついているかのようではないか……。
「……ふん、まぁいい」
時のプリンスは特にそれ以上は踏み込まない。
さらりと流して森のプリンセスの方へ顔を向ける。
「で、我に何をせよと」
ぶっきらぼうに言われた森のプリンセスは伸ばしている左腕の肘辺りをもう一方の手で掴む。
「随分偉そうねー」
時のプリンスはよく分からないというような顔をしていた。
「まぁいいわ。で、来てほしいと頼んだのは、ここで敵を確実に倒しておきたいからなのだけれど……」
「理解した」
「最後まで聞きなさいよ」
「要はあやつを倒せば良いということであろう?」
はぁー、と長めの溜め息をついてから、森のプリンセスは「そうよー」と返すのだった。
「ははは! こりゃあいい!」
黒色の微細な水の粒が飛び交う中、元・剣のプリンスは声を張り上げる。
「全員まとめて片付けられる時が来るとはな!」
何人いようと関係ない、ただ仕留めるのみ。
そう言いたいのか。
「戦いはやめてください」
無意味と気づきながらも放ってみた。
「はぁ?」
きっと彼には届かない。
そもそも、この世のありとあらゆるものが言葉のみで解決できるのであれば、暴力も戦いも存在することはないだろう。
誰も必要としないものはいずれ消えてゆくというのが定めだ。
それらがいつまでもこの世から消えないというのは、いつの世も話を聞かない者がいるから。そして、他者を物理的な力でねじ伏せようとする者がいるから、でもあるのだろう。
「殺し合う意味などありません」
「意味ならある!」
「……憎しみを晴らすため、ですか」
「まあそうだなぁ、それも一つだ」
元・剣のプリンスは意外にも会話に付き合ってくれる。
それだけ余裕を持っているということか。
こちらが振った話題に乗っかって時間を使ってしまってもそれでもなお勝てるという確信があるからこそ、乗ってきてくれているのだろう。
ある意味私たちが馬鹿にされている舐められているということかもしれない。
「だとしても……お願いです、もうやめてください。戦いを生み出すことで救われる者なんていません」
「いるんだよそれが」
片側の口角をぐいっと持ち上げる元・剣のプリンス。
「俺とかな!!」
勢いよく発される声。それを合図としたかのように、彼の背後から黒い触手が大量発生。艶のあるゼリーのような質感の触手が一斉にこちらへ向かってきた。
けれどそれは盾のプリンスがドーム状の透明な盾を出して防いだ。
しかしそれだけで動きを止める触手ではない。それらはまるで諦めない心を持っているかのよう、ドーム状盾の外側の面を刺激することをやめはしなかった。滑らかな面を舐めるように擦ったり、つつくように軽いタッチを繰り返したり。様々な方法でドーム状盾に穴を空けようとしている。触手の先端が盾の表面に触れるたびにピキと音が聞こえ、控えめな衝撃が盾を駆け抜けてゆく。
「何なのこの触手……気持ち悪い……」
密かに思っていたことが口から出てしまった。
「心配せずとも今回は絶対に穴を空けられはしない」
「え?」
「同じ失敗はもうしない」
「あ、そういうことですか」
黒い触手はまだ盾の表面に刺激を与え続けている。
しかし盾は崩れない。
「安心してほしい」
彼のことを信頼していないわけではないが、いつまでもこうしていては進まない。とはいえこれといった圧倒的な攻撃手段があるわけでもない。
どうすれば、と思っていた、その時。
胸もとにあるコンパクトから強い光が放たれる。
だがそれだけではなかった。
「え。何なの、これ」
「光っているわー」
「どうなってんだ!?」
「ふええ!?」
コンパクトから光が放たれるのみならず、七人のプリンセスプリンスたちが所持していた鍵のような形の物体までもが光り出したのだ。




