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episode.87 これで終わり

 翌日の朝も天気は良かった。

 空は青く澄んでいる。

 窓越しではあるが、美しい空を見上げていると自然と心がすっきりしてくる。


「フレレ! これ飲んでくださいっ!」

「え」


 物資が入った箱を運んでいると、愛のプリンセスが急に声をかけてきた。

 彼女の手には赤茶の液体が入った透明のグラス。


「それは?」

「お疲れ様でっす! 飲んで休んでくださいっ!」

「あ、いえ、大丈夫ですよ」


 すると彼女は急激に接近してきた。


「飲んでください!」


 大きな声で言い放つ。

 顔面をぐりぐり押しつけるような圧をかけてくる。

 仕方がないので従うことにした。一旦箱を床に置いて、目の前にまで迫っている背低めのグラスを受け取ると、顔を近づけて少し嗅ぐ――それから唇をつける。グラスを傾けると、果物のような香りのする液体が口の中へと流れ込んでくる。


「美味しいです!」


 自然と口から言葉がこぼれた。

 甘くて、でも過剰な甘さではなくほどよく爽やか、微かな酸味もある。


「何ですか? この飲み物」

「果物ジュースだそうですー」


 愛のプリンセスが言うには、グラスに入っているこの液体は届いた物資の中にあった飲み物だそうだ。

 係員に言って少し貰ってきたとのことである。

 盗んできたのでなくて良かった、と、密かに安堵する。


「へぇー。美味しいですね」

「気に入ったなら良かったですっ!」


 深い意味はないが「愛のプリンセスさんは飲まないのですか?」と尋ねてみると、愛のプリンセスは満面の笑みで「アイアイはもう飲みましたよー!」と返してきた。


 その直後。


「ほえ?」


 愛のプリンセスは私の胸もとを見ながら首を傾げる。


「フレレ、それ、光ってますよ?」

「え。……あ、確かに。本当ですね」


 自身の胸もとを見下ろせば、コンパクトが白く光っているのが見えた。

 目を閉じずにはいられないというような強い光ではないけれど。


 何が起きているのだろう? よく分からないまま、グラスを持っているのとは逆の手で軽く触れてみる。が、特に変化はない。熱はそれほどなかった。この発光は何なのか? 謎でしかないけれど、熱くなっているというわけでもないので、今すぐどうにかしなくてはならないということはなさそうだ。


「謎ですね……」

「ですですー」

「ま、発熱はしていませんし、このままにしておきます」

「ですねっ。害がないならそれでよっしよしーっ!」


 愛のプリンセスは両手でそれぞれ丸を作りながら明るい笑みを浮かべていた。



 もうじき昼になる、という頃、私はふと窓の外へ目をやる。

 そして違和感を覚えた。

 なぜだろう、先ほどまでとは空の色が違っているように感じる。


「クイーン」

「……あ」


 背後から声をかけてきたのは盾のプリンスだった。


「何か用でしょうか?」

「実は」


 気まずそうな顔をしている彼は少し間を空けてから再び口を動かす。


「敵の接近が確認されているらしく、一般人は室内で待機するようにと」

「……っ!」

「君もあまりうろうろしない方がいい。もっとも、戦闘要員は前より増えているから恐らく大丈夫ではあるだろうが」

「そうですか……ありがとうございます、分かりました」


 嫌な感じだ。

 胸の奥がざわつく。


 しばらくは晴れやかだった。穏やかで敵襲もあまりなかった。それゆえ忘れてしまっていたこの感じ。心臓の血管が詰まるようなさりげない気持ち悪さと怖さ。


 その場に佇むことしかできずにいると。


「平気か?」


 盾のプリンスは腰を曲げて覗き込んできた。


「はい」

「……嘘だな」

「え!?」

「嘘だ、と言っているんだ。平気なようには見えない」


 ならなぜ「平気か」なんて尋ねたの……。


「取り敢えず部屋に入るといい。あそこなら安全だ」

「私一人隠れていて良いのでしょうか」

「いい。それに一人ではない、ウィリーもいる」


 その後私は一般人たちが滞在している部屋へ入った。


 ここにいる顔ぶれも最初と比べると少々変わったように思うが、出ていった人たちは元気に暮らせているのだろうか……?


 だがウィリーと会えるのは嬉しかった。


 緊張する場面であればあるほど、近くに知り合いがいるということが嬉しく感じられる。



 それから数分が経って。

 突如扉が吹き飛んだ。


 この部屋には複数の扉がある。今吹き飛んだのはそのうちの一つだけ。


 頑丈な作りかというとそんなことはない、が、ぼろぼろの弱々しい扉というわけでもない。それが突如吹き飛んだということは明らかに非常事態。


 室内にいた一般人たちもざわめく。

 扉が吹き飛んでから数秒、情緒不安定な人間のような存在が一体姿を現した。

 外見は一般的な人間の男性。服も着用している。が、表情からは怒りと一種の狂気のようなものが感じられる。また、曖昧な発声ながら、恐怖心を煽るような気味悪い言葉を並べている。


「フレイヤ様、そこにいてください!」


 叫ぶと同時に杖を握るウィリー。


「ウィリーさん……」

「敵はお任せください!」


 数秒後、敵がウィリーに向かって駆け出す。まるで飢えた獣のような表情。しかしウィリーは怯まない。立ち位置は変えず、杖を握る手に力を込める。それと同時に放たれる大量の葉。どこからともなくやって来た多数の葉っぱは武器のように敵に向かって飛んでゆき、敵にダメージを加える。大量の葉がぶつかってくるうえ視界も悪くなり敵は直進できない。


 が。


 かくんと膝を曲げ体勢を変えたと思ったら、こちらへ向かってきた。


 逃げる?

 いや無理。


 私が逃げたら私以上に丸腰な人たちが襲われることになってしまう。


 ここは言われていたように安全ではなかった。そんなことを思っても意味なんてないと私は知っている。クイーンズキャッスルの時もそうだったのだ、最初は安全とされていた。でも、状況が変わると、クイーンズキャッスルも敵襲のない場所ではなくなった。だからこの部屋が安全でなくなったことには驚かない。状況が変わればすべてが変わる。


 覚悟しよう。

 もう逃げてはならない。


 一歩、踏み込まれる。その時を狙って両手を前へ。敵のパンチはバリアで防ぐ。想定外の流れで防がれたからか敵の動きが一瞬停止。その隙に、私はもう一度両手を前へ。敵を突き飛ばすような動作をする――そう、これはバリアではない――攻撃、だ。


 敵は勢いよく後ろへ吹き飛ぶ。

 しかしすぐに立ち上がってくる。


 ……威力がいまいちだっただろうか?


 でも考えている暇なんてない、敵はまた進んできている。


 ウィリーが「フレイヤ様!」と叫ぶのが聞こえた、でも返事はできない。


 迫り来る敵の片腕を振りかぶっての攻撃。こちらも片手の手のひらを当てて受け流す。そこから素早く反撃したい。今度はこちらの番と叫ぶくらいの心の持ち方で。迷わない。手のひらを突き出すように腕を交互に前後させる。


 敵は「お!?ぶぉ!?」というような声を発しながら後退していく。

 そして壁際にまで追い込んで。


「これで終わり!」


 最後は両手で突き飛ばす。


 敵は壁に激突し、その場で塵になった。

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